はじめに
最近ではよく耳にすることが多い半導体ですが、その業界には実際にどんな会社があって、それぞれどんなことをしているのか半導体業界に興味のある方以外で理解している方は少ないのではないでしょうか。
現在、世界中のあらゆるところに半導体が使われていて、なくてはならない存在となっています。
今回は半導体業界の基礎知識を、誰でも分かるように解説していきます。
・半導体とは?
・半導体業界の今後の動向
・半導体業界の構造
・半導体トピックス(半導体不足、ムーアの法則、3次元構造トランジスタ)
半導体業界の基礎知識
半導体とは?
物質には、金属のように電気を通しやすい「導体」と、ガラスやゴムのように電気を通さない「絶縁体」があります。この2つの中間の性質を持った物質を「半導体」と言います。
本来はこのような物質のことを指しているのですが、現在では半導体を用いた電子部品や、それらを集積したIC(integrated circuit;集積回路)やLSI(Large Scale Integration;大規模集積回路)などを指すこともあります。
様々な用途があり、エアコンや炊飯器の温度センサーや、パソコンのCPUなどの身近な家電から、次世代の自動車や社会インフラなどにも半導体が活用されています。経済産業省のレポート(下図)でも、半導体の重要性が述べられています。
半導体業界の今後
様々なものがデジタル化していく今後の社会では、半導体は非常に重要な役割を担っています。
下図は半導体業界の地域別の市場予測を表しています。
また、次の図は半導体製造装置およびFPD製造装置の需要予測を表しています。
これらを見ても分かるように、半導体業界は今後ますます成長していく業界だと言うことができます。
半導体業界のプレーヤー
半導体業界には大きく分けてウェーハメーカー、半導体デバイスメーカー、半導体製造装置メーカー、半導体商社の4つの種類の企業群が密接に関連しあって構成されています。
ウェーハメーカーとは、半導体の材料となるシリコンウェーハを製造している会社のことです。
シリコンウェーハは、半導体デバイスの“土台”となっている部分で、ウェーハメーカーは製造したシリコンウェーハを半導体デバイスメーカーに販売しています。
信越化学、SUMCOの日本企業2社が世界トップ2を占めています。
半導体デバイスメーカーとは、“半導体デバイスそのもの”を製造する会社のことです。
それに対して半導体製造装置メーカーとは、半導体デバイスを製造するために必要な“装置を製造する会社”のことです。
半導体の加工には非常に精度の高い技術が必要で、専用の加工装置が必要となります。
また、半導体商社とは半導体メーカーと電子機器や産業機械のメーカーをつなぐ会社です。
ただ単に半導体を仕入れて各メーカーに納品するだけでなく、開発サポートをしたり、独自商品を開発したりと事業の多角化が進んでいます。半導体商社にも、技術を持った方が活躍できる仕事は多くあります。
例えば、FAE(フィールドアプリケーションエンジニア)は、技術に関しての高度な専門知識を備えた営業職のことで、営業スタッフをサポートしたり、営業先企業のエンジニアと直接打ち合わせを行ったりします。
半導体デバイスメーカーと半導体製造装置メーカーはもう少し詳しく解説をしていきます。
半導体デバイスメーカー
半導体の製造は設計、前工程、後工程の3ステップあります。
設計とは、配線回路の設計のことです。前工程では、シリコンウェーハ(シリコンから作られる表面が超平坦の円盤状の材料)表面に電子回路を高集積で形成していきます。
後工程では、ウェーハから半導体を切り出し、パッケージングした後に何重もの検査を経て完成です。
半導体デバイスメーカーには大きく分けて3種類あります。それが「IDM」「ファブレス企業」「ファウンドリ企業」です。
1つ目の「IDM」は、「垂直統合型メーカー;Integrated Device Manufacturer」のことで、開発から設計、製造、販売まですべて垂直統合で自社のビジネスとして行っている企業のことです。
Intelやサムスン電子、また日本の大企業はほとんどがこのIDMに分類されます。
具体的にはキオクシア、ルネサス エレクトロニクス、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ローム、東芝などが含まれます。
2つ目の「ファブレス企業」とは、工場;fabrication facilityを持たない企業のことで、設計や販売のみを行い、自社で製造の機能を持たない企業を言います。
ファブレス企業の例としてはQualcomm、Broadcom、NVIDIAなどがあります。
3つ目の「ファウンドリ企業」とは、ファブレス企業の逆で製造の機能に特化した企業のことです。
ファブレス企業(または一部のIDM)に製品を納品することで利益を得ています。
ファウンドリ企業の例としてはTSMC、サムスン電子(※)、UMCなどがあります。
※サムスン電子はIDM、ファウンドリの両事業があります。
半導体製造装置メーカー
設計、前工程、後工程のそれぞれでは非常に精密な装置が必要で、マイクロメートル(μm)、ナノメートル(nm)レベルの非常に小さな世界での作業になります。
最先端の専門的な装置が必要で、各社強みを活かして取り組んでいます。
商品レベルで世界トップシェアを誇る日本の企業も多くあります。
半導体製造装置全体としては、日本のシェアは32%ということで、世界の半導体製造装置業界でも大きな位置を占めています。
日本の半導体製造装置メーカーとしては、東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENホールディングス、KOKUSAI ELECTRIC、日立ハイテク、ディスコ、東京精密などがあります。
半導体トピックス1:半導体不足
ここでは、最近ホットな話題である「半導体不足」について解説していきます。
面接で聞かれる可能性もあるので、背景からしっかりと理解しておきましょう。
半導体不足の原因
半導体不足には様々な原因がありますが、ここでは大きな原因を5つご紹介します。
1つ目は「コロナによるDX加速」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がAIなどのテクノロジーを使ってビジネスを変革させていくことです。パンデミックによってリモートワークが進み、予想を上回る半導体の需要が生まれました。
2つ目は「米中貿易摩擦」です。米国が中国の半導体企業との取引を停止し、台湾や韓国の企業に切り替えたため、需要が集中してしまいました。ただでさえ台湾や韓国等の東アジア諸国にメーカーが集中している状況に、さらに追い打ちをかけるように大きな需要ができてしまいました。
3つ目は「自動車分野の需要増大」です。脱炭素社会に向けてEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)などに搭載するために必要な半導体がここ数年で急速に増加しました。
4つ目は「レアメタル/レアアースの不足」です。半導体デバイスを製造するためにも必要ですが、その資源は偏在しています。米中貿易摩擦やロシアによるウクライナ侵攻の影響でこれらの供給が滞ってしまっているのも半導体不足の要因の一つです。
5つ目は「サプライチェーンの混乱」です。新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などの影響があって世界各地のサプライチェーンに混乱が生じています。生産地が集中しているのはこういった場合に大きな影響を及ぼします。
上記のような様々な原因が複合的に影響を及ぼして、現在の半導体不足につながっています。
半導体不足はいつ改善されるか
半導体不足が解消される時期については各社が予測を立てています。
NVIDIA社やARM社は2022年の年末ころには半導体不足が解消されるという見通しを立てています。
一方で、IntelのCEOは「半導体不足は2024年まで続く」と個人的な見解を示しています。
各社の予測から、あと1~2年程度は半導体不足が続く可能性があるということが分かります。
半導体トピックス2:「ムーアの法則」と「3次元構造トランジスタ」
ここでは、半導体技術の進歩についての経験則である「ムーアの法則」について解説していきます。
Intel創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が発表したためこの名前になっています。
ムーアの法則とは?
ムーアの法則とは、「半導体の集積率は18ヶ月で2倍になる」という法則です。
集積率が2倍になるということは、性能が2倍になったり、コストが1/2倍になったりすることを意味します。
半導体は様々な産業で活用されているため、ムーアの法則は半導体業界のみならず多くの業界での必須知識となりました。
しかし、近年では半導体チップの小型化が進み、物理的な限界に近づいているのではないかという意見も多くなってきています。というのも、小さくなっていくといずれ原子の大きさにぶつかり、それ以上は分割できなくなってくるためです。
3次元構造トランジスタ
ムーアの法則の限界を克服する新たな技術として、この「3次元構造トランジスタ」が注目されています。
その名の通り、2次元平面上ではなく3次元で縦に積んでいってパッケージ内のトランジスタ数を増やしていくという技術です。
すでに3次元化に成功しているNANDフラッシュメモリなどもあり、今後さらなる進歩に期待されています。
最後に
かつては「半導体といえば日本企業」という時代もありましたが、現在は競争が激化してきています。
ですが、今回ご紹介したようにまだまだ世界トップシェアを誇る製品も多くあり、その地位は失っていません。
今後ますます伸びていく業界です。ぜひ半導体業界の未来について考えてみてください。