今日、社会のデジタル化の動きはますます拡大を見せています。それは金融機関においても同様で、特に2021年の銀行法改正以降、デジタル技術を活かした様々な事業が生まれています。
本稿では、銀行法改正以降の銀行によるデジタルビジネス事例を取り上げます。
今後も新たなデジタルビジネスは生まれていくことが予想されるため、金融機関の現状を知るという観点でご一読いただけますと幸いです。
2021年銀行法改正の背景とポイント
まずは、簡単に2021年銀行法改正の背景とポイントについてまとめます。
背景
銀行を始めとする金融機関は、ポストコロナの日本経済の回復・再生を支える重要な役割を果たすことが求められていました。
その期待に応えるため、業務範囲規制や出資規制を見直すことを背景として、銀行法が2021年5月に改正・11月に施行されました。
改正内容
銀行の子会社・兄弟会社の業務範囲規制について
*収入依存度規制:
従属業務(従属する銀行、その子会社等の業務に係る事務のうち、その業務の基本に係ることのないものであり、かつ、その業務の遂行上必要となるもの。具体的には、営業用不動産管理、ATM保守・点検、現金小切手等集配など)を営む会社は、①親銀行グループからの収入が50%以上であること②当該銀行グループに属する銀行からの収入があることが必要という規制
銀行本体の業務範囲規制について
銀行・銀行持株会社傘下の投資専門会社を通じた対地域活性化事業会社への出資規制について
銀行・銀行持株会社傘下の外国金融機関を通じた一般事業を営む外国会社への出資規制について
その他の改正
・海外の投資運用会社の日本への参入制度を創設
・経営統合等を行う地域銀行等向けの資金交付制度の創設
・銀行等保有株式取得機構による株式等の買取期限等の延長
・預金保険機構の財務の健全性を確保するための金融機能強化勘定への繰入れ規定の整備
参考記事:
https://www.fsa.go.jp/common/diet/204/01/setsumei.pdf
金融機関の多様なビジネス事例
2021年の改正銀行法によって様々な規制が緩和され、非金融業務への参入やデジタルビジネスの拡大がしやすくなりました。そして、改正を受けて金融機関では様々なビジネスが生まれています。今回は緩和以降の金融機関のビジネス事例を取り上げます。
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行のビジネス事例としては、2023年に株式会社サイバーエージェントと協働の「Bank Ads」を立ち上げ、デジタル広告事業に参入しています。これは銀行の持つ顧客基盤や金融データを活かし、法人向けに広告媒体として三菱UFJダイレクトアプリ内のディスプレイ広告やEメール広告、DMの提供を行うサービスです。
特徴としては、3,400万件という膨大なデータ量に加え、年収や資産残高、口座の引き落としの情報など顧客の詳細情報を扱うことが可能な点があります。そのため、細かなターゲティングを駆使した精度の高い広告配信が期待されると言え、実際に、ディスプレイ広告でCTRが約3%と非常に高い実績を上げた例も存在します。
参考記事:
https://www.saiyo.bk.mufg.jp/strategy/dx/
https://www.mufg.jp/profile/strategy/dx/articles/0120/index.html
三井住友銀行
三井住友銀行は「Olive」という個人向け総合金融サービスの提供を2023年に開始しました。Oliveは銀行や決済に加え、証券、保険等、必要な金融サービスを1つのアプリにまとめた管理・利用を可能にするもので、個人向けのデジタル促進の一例と言えます。また、Olive開発にあたってはSMBCのデザインチームにも注目が集まっています。SMBCのデザインチームは”デザインの力で「最も選ばれる金融グループ」を創る”ことを掲げ、アプリ開発やCX改善等を行っています。三井住友銀行はデザインに関して、書籍やnoteの発信をするほど力を入れており、今後も顧客にとって便利なアプリやホームページの開発が期待されます
参考記事:
https://www.smbc.co.jp/kojin/olive-account/
https://www.smfg.co.jp/gr2021/special/special02/
みずほ銀行
みずほ銀行の取り組みとして特徴的なのは、地方創生ビジネスが挙げられ、八丈島でのスマートアイランドプロジェクトがあります。2019年に島内のキャッシュレス推進の支援を開始し、2022年8月に八丈島と協定を結んでからは、キャッシュレスに限らない、島のDX推進によるスマートアイランド実現を目指した活動を行っています。具体的には防災・減災、水産業、観光、行政の分野においてDX推進を行っており、土砂災害が発生する危険性がある箇所に、地面の動きや傾きの変化を測るIoTセンサー(傾斜計)の設置やザトウクジラの調査・観察にAIを使って観光資源化を進める取り組みなどは注目を集めています。
また、他にも、組み込み型金融である「ハウスコイン」や紙チケットの電子化である「電子地域振興券」などの金融面のDX化や、メタバース上での決済機能提供なども行っています。
参考記事:
https://www.mizuho-fg.co.jp/dx/articles/2307-hachijojima/index.html
https://www.mizuho-fg.co.jp/company/strategy/it/index.html
千葉銀行
株式会社千葉銀行は2021年5月に千葉銀行100%出資で、地域商社の「ちばぎん商店株式会社」を設立しました。同社は地域産品・サービスの販路開拓やマーケティング支援を通じて地域の経済循環システムを構築し、地域社会の持続的な発展に貢献していくことを目的にしています。事業内容としては、地域ブランド商品等の企画開発及び販売事業やクラウドファンディング運営事業等を行っており、クラウドファンディングにおいては、ちばぎんアプリやSNSなどを活用したプロモーションによって、これまで多くのプロジェクトが目標金額を達成しており、ローカル線沿線地域に特化した特別企画も誕生しています。
参考記事:
https://www.chibabank.co.jp/company/info/80th/history80/part03/section_030206.html
https://cbmnet.co.jp/company/
終わりに
今回挙げた事例以外にも様々なビジネスが動いており、金融機関やそこに関わる事業会社等で多様なデジタルビジネスが今後も拡大していくことが予想されます。
コトラでは金融機関のデジタルビジネスの求人を多数扱っているだけでなく、ご希望があれば面談を通してデジタル化の背景などをご説明させていただくことも可能です。本分野に関心を持たれた方は、ぜひこの機会に金融業界のデジタル化にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。