Eコマースとモバイルデバイスの普及により競争環境が激変した小売・流通業界は、ビッグデータの活用無しでは生き残ることが出来なくなっています。
刻一刻と変化するトレンドや顧客要望の多様化、続々と登場する新たな競合企業や新製品、果てが見えないオペレーション効率化と言った厳しい競争環境に対応する為、小売企業のビジネスのあらゆる領域でビッグデータが活用されています。
本記事では、海外を中心に大手の小売企業におけるビッグデータの活用事例やソリューションを紹介します。
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小売・流通業界におけるビッグデータ活用事例20選
ビッグデータでパーソナライズな接客を目指す「Nordstorm」 企業名/Nordstorm アメリカ
Nordstormはアメリカの高級ファッションデパートで225以上の店舗を構え年間1兆円の売上を誇ります。
Nordstormは高度な需要予測や接客のパーソナライズ化といった先進的な小売店への進化を、ビッグデータを活用して進めています。例えば、彼らはオンラインショップと実店舗の在庫データを統合し、顧客が来店前にオンラインで欲しい商品を確認し、それがどの店舗で、いつ試着・購入が可能なのかを把握可能にしたり、その顧客が実際に来店した時にショップのスタッフにその顧客のオンラインでのアクションした内容が通知されたりといったことをビッグデータで実現しています。
Nordstromは「Innovation Lab」という機関を創設しテクノロジーの研究・実験を加速させています。
ビッグデータで患者に能動的にアプローチする「CVS Pharmacy」 企業名/CVS Pharmacy アメリカ
CVS Pharmacyは全米で10,000程の店舗数を誇るドラッグストアチェーンです。彼らはその巨大なチェーンを利用する7,000万人にも及ぶ患者の購買データを用いて、新しい価値を生み出そうとしています。
薬局の薬剤師が処方薬を決める際に活用できるダッシュボードや、望ましくない形で服薬を止めてしまっている(もしくはしそうな)患者を予測・発見し、リテンションをサポートする機能。そして、顧客の購買傾向から適したクーポンを付与できるといったパーソナライズなマーケティングを実現する機能等がその例です。
ビッグデータで顧客を熟知する「Target」 企業名/Target アメリカ
Targetはアメリカの巨大ディスカウントストアチェーンです。
Targetでは他の多くの会員システムと同様に、会員登録の際に個別のIDが割り振られ、登録名等の情報や決済に使われたクレジットカードの名がデータベース上で紐付けされています。メールアドレスも取得しているので、会員の過去購買傾向から、個々のユーザーにとって最適なクーポンをメールで発行する等のパーソナライズされたマーケティング施策が行われています。
彼らは早期からビッグデータ活用に熱心で、2012年の時点で、大量の購買データを分析することで「その顧客が妊娠しているのか、何週目なのか」といった非常に詳細な予測を、高い精度で可能だと判断していました。実際に、データに基づいた分析で、父親より先に高校生の娘の妊娠を突き止め、クーポンを送ってしまった事がきっかけで、娘が父親に妊娠を告白した件は多くのニュースで取り上げられました。
ビッグデータで次世代の顧客体験を目指す「Macy’s」 企業名/Macy’s アメリカ
Macy’sはアメリカに700以上の店舗数を誇る大手デパートメントストアです。
Macy’sもまた、ビッグデータを活用してローカライズ、パーソナライズされたスマートな顧客体験を創造しようとしています。特にパーソナライズ化に力をいれていて、彼らはオンライン・オフラインを問わず、取得可能なあらゆるデータから分析した結果を用いて、高度にパーソナライズされたダイレクトメールを送信しています。そのバリエーションは50万にも及び、顧客の購買傾向やその時点でのニーズを理解し、最適な内容が送信可能なレベルまで精度を向上させています。
ビッグデータで先回りする「Walmart」 企業名/Walmart アメリカ
ウォールマートは世界最大のディスカウントストアチェーンでグローバルでは20,000以上の店舗数を有しています。取得できるデータはまさにビッグデータで1時間あたり2ペタバイト(1ペタは1024TB)以上のデータが収集されると言われています。彼らは”Cafe”というウォールマートの各部門が問題解決の際にアクセス可能なビッグデータ解析ツールを構築しました。特定のリージョンで売上が急激に下がったプロダクトについて、原因を20分ほどで特定したり、ハロウィン等の季節性のイベント時に急激に需要が上がった際には、在庫がない店舗をシステムがピックアップしてアラートを出し、在庫補充が実行されるといった事が実現されています。
ビッグデータでオンラインとオフラインを繋げる「Neiman Marcus」 企業名/Neiman Marcus アメリカ
Neiman Marcusは100年以上の歴史を誇る、ラグジュアリー商品を扱うアメリカのデパートメントストアです。
彼らは他のリテールのビッグデータ活用と同様にパーソナライズ化されたマーケティングを実現していますが、特に意識しているのはオフラインとオンラインを繋げる事です。オフラインのショップに来店したユーザーを、オンラインに誘導する事ができれば、ユーザーの来店動機になったプロモーションチャネルまで分析の対象を拡げることができ、宣伝広告費をより効果的なメディアに投下できるからです。
ユーザーの行動をデータ解析によって、より具体的に把握するために、データ自体を測定可能な状態にする施策の重要性が分かる事例です。
ビッグデータで購買率の向上に取り組む「Staples」 企業名/Staples アメリカ
http://www.meruscap.com/blog/2013/10/staples-acquires-runa-to-drive-big-profits-from-big-data/
Stapleはアメリカのオフィス用品を中心に扱う小売チェーンで、オンラインでは首位のAmazonに大きく離されつつも、2番手としてのシェアを誇っています。
Staplesは2013年に、「Runa」というオンラインショップの顧客の購買率を上昇させるソリューションを提供するビッグデータ解析企業を買収しています。
2013年当時はイーコマース事業者は集客に多大なコストを掛けているのにも関わらず、実際の購買率は3%前後と、ほとんどの顧客が購入をしないという状況があり、RunaはEbayやグルーポンといった巨大なマーケットにこの問題を解決するソフトウェアソリューションを提供したことでStaplesの関心を得ました。
スタートアップだからこそビッグデータを活用する「Shoe Passion」 企業名/Shoe Passion ドイツ
Shoe Passionはドイツ発のスタートアップでメンズ向けのシューズを販売しています。彼らはデータ解析ソリューションを提供するスタートアップのDatameer社と提携しビッグデータ活用を開始しました。それまでGoogleドライブ等に蓄積されていたデータをDatameerが提供するソリューションに投入して分析を行うことで、ユーザーの購買傾向を把握し、クロスセルを10%以上伸ばす等、目を見張る実績を残しました。Datameerは小売向けのビッグデータ解析でメジャーなツールHadoopに精通したチームが独立して設立しており、Hadoop上にエンドユーザーが自ら解析を実行できるツールを提供しています。
全社でデータ・ドリブンな体制構築を目指す「SEARS」 企業名/SEARS アメリカ
SEARSはアメリカの日用生活品やDIY用品を中心に取り扱う小売チェーンで、800程の店舗数を誇っています。SEARSは小売り領域でのビッグデータ活用を競合に先駆けて実施しており、2010年時点でHadoopを大規模に導入する等先進的な取り組みを進めています。現在では、クレジットカード等の不正の検知やマーケティングキャンペーンの効果測定、在庫管理と自動調整等、全社的にデータドリブンな意思決定が可能なリソースが配備されています。その洗練度は「ユーザーの購買率を上げる為に、店頭にいる顧客にリアルタイムにパーソナライズされたクーポンを発行できるレベル」まで到達しています。
全方位的なビッグデータの活用をする「TESCO」 企業名/TESCO イギリス
TESCOは日用品、食品を中心に扱うイギリス最大手のスーパーマーケットチェーンで世界に7000以上もの店舗数を構えています。その領域はスーパーマーケットに留まらず銀行や携帯電話等多角化しています。
彼らも当然ながら会員システムを持っており、収集されるデータを1990年代からビジネスに活用してきました。現在では3800万人もの会員がいて、全購買の60%強をユーザーデータと紐付ける事ができているそうです。
彼らは他の競合と同様にパーソナライズ化されたマーケティングやその地域の天候と該当地域のユーザーの購買傾向等を紐付けた需要予測によるロスの削減等を実現しています。ユニークな事例としてIBMと共同して進めたプロジェクトで、需要予測や在庫量に応じてストアの冷蔵庫の温度を自動で最適化したことにより年間で25億円程の電気代を削減できた件が知られています。
ビッグデータで中国進出を支援する「Metro Group」 企業名/Metro Group ドイツ
Metro Groupは世界の25の国で750程の国でビジネス向けの消費財を販売するリテールチェーンです。Metro Groupはグローバルにデータ解析ソリューションを提供するTeradataのソリューションを利用して需要予測やマーケティング等のあらゆる領域でビッグデータをビジネスに活用しています。
現在では中国のアリババグループと提携しドイツ企業の中国進出をサポートするソリューションを提供しています。
ビッグデータで顧客の本音を探る「Kohl’s」 企業名/Kohl’s アメリカ
http://www.mytotalretail.com/article/customer-product-data-drive-kohls-merchandising-strategy/
Kohl’sはアメリカの大手デパートメントストアです。彼らより顧客を深く知るためのツールとしてビッグデータを活用しています。例えば、クリスマスシーズンにオンラインショップの検索ボックスで「クリスマス ドレス」と検索するのは「クリスマスパーティの為にドレスを探す大人の女性」ではなく「子供の為にクリスマスドレスを探す母親」であることを理解し検索結果を調整し、販売を向上させました。ヒートマップ解析等も導入し検索結果とユーザーの実際のマウスの動き等を合わせて解析し、顧客の理解を深めています。
顧客とのコミュニケーションを進化させる「Sainsburys」 企業名/Sainsburys イギリス
Sainsburysはイギリスで第二のスーパーマーケットチェーンです。Sainsburysは業績が低迷している時期に、ビッグデータを活用した再建プランを掲げました。
彼らが特に意識したのは顧客とのコミュニケーションを高度にする事です。個々の顧客の購買傾向をビッグデータから分析し、個別的割引提案やクーポンの発行、その他の提案を含めたコミュニケーションを一人ひとりの顧客に最適化することでエンゲージメントを高めることを目指し、既に成果を大きな効果を実感しているそうです。
ソーシャルリスニングを導入した「Otto」 企業名/Otto ドイツ
Ottoグループは古くはメールオーダー、現在はオンラインでファッション、ライフスタイル関連商品を販売するヨーロッパで最も大きい小売企業の1つです。彼らはWebtrends社をソリューションパートナーにして、自らのブランド認知度や顧客の嗜好や購買傾向の変化をリアルタイムに把握することができるツールを導入しました。当時、グループ内には100を超えるブランドネームが存在し、それぞれのブレンド認知度や市場でのポジション変化を高スピードで把握する技術やリソースが存在しない、という課題を解決し、分析結果をプロモーション施策の検討やウェブサイトの最適化に役立てています。
ビッグデータでパーソナライズなプロモーションを「Argos」 企業名/Argos イギリス
Argosはイギリスのカタログリテーラーで、Sainsbury’sの子会社です。
Argosはオンラインショップに”My account”という機能を設置し、登録された会員の購買データに基づいてデータドリブンでパーソナライズドされたプロモーションを展開することで、会員登録した顧客の売上を45%向上させました。効果に気付いたArgosは会員登録を促し、1年間で300万人の新たな会員を獲得し、ビッグデータの取り組みを更に進めています。
ビッグデータで天気と本の販売の関連性を見出した「Ozon.ru」 企業名/Ozon.ru ロシア
ロシアのAmazonと言われるOzonは1998年に設立されました。冬には大雪が降り、厳しい寒さに襲われるロシアでビジネスを展開するOzonにとって、天気はビジネスを左右する重要な要素です。
16年間にも及ぶ顧客の購買データを天気と関連付けて解析した結果、雪模様の日にはグローブやコートだけでなく書籍も売れ行きが良いというインサイトを得て、検索結果を最適化しました。彼らはロジスティックスが未発達なロシアで独自の物流網を構築しようとしており、その最適化にもデータアナリティクスを用いる方針を表明しています。
ビッグデータで常に最適な価格設定を実現する「StageStores」 企業名/StageStores アメリカ
Stage Storesはアメリカのデパートメントストアチェーンで、ブランド・アパレルやアクセサリー、化粧品等に特化し、全米で40店舗を構えています。
彼らは、顧客がインターネットで簡単に価格を比較できる現在の厳しい小売ビジネスの環境に適応するために、データドリブンな価格の自動最適化を行いました。店頭のスタッフは当初データアナリティクスに基づいた価格調整の有効性に懐疑的だった為、人的な判断とデータによる判断を半年間に渡って比較した結果、90%のケースにおいてデータによる分析が有効であるという結果が出たことから全社的に採用することを決定しています。
以降、パーソナライズされたマーケティングプロモーション等、ビッグデータの活用を促進しています。
パブリッシャーと一体になって業績向上を目指す「Barnes&Noble」 企業名/Barnes&Noble アメリカ
Barnes & Nobleはアメリカの最大手の書籍販売小売チェーンでFortune500企業です。
デジタルメディアの運営や教育向けの製品等も扱っています。Barnes & Nobleは「IBM Netezza」を採用しビッグデータ活用を推進しています。彼らが目指しているのは書籍のパブリッシャーが能動的に利用できるデータアナリティクスツールを提供することです。単なる在庫管理に留まらず、マーケットプレース上での販売動向や競合分析等のインサイトを得られるツールを提供することで、マーケティングリソースに乏しい小規模のパブリッシャーを支援し、業績向上に繋げようとしていています。
ビッグデータでパーソナルスタイリストを「Stitch FiX」 企業名/Stitch FiX アメリカ
Stitch FiXは2011年にアメリカのサンフランシスコで、ハーバードビジネススクールの卒業生によって創設されたアパレルベンチャーです。
ユーザーは登録時にサイズや好きなブランド等の50程度の項目に回答することで、Stitch FIXはそのユーザーの好みに合いそうな服を何点かボックスに詰めて送り、ユーザーは試着をして気に入れば購入、購入しない分はボックスに詰めて送り返す事ができます。このユーザーの選択の積み重ねによるデータをアルゴリズムが学習し提案の精度が向上することで、ユーザーは自分の好みを知り尽くしたパーソナルスタイリストを利用することができます。
Stitch FiXは多くのユーザーの嗜好性やトレンドを深く理解している強みを活かしプライベートブランドも展開しています。
ビッグデータ活用の王者「Amazon.com」 企業名/Amazon アメリカ
http://www.investopedia.com/articles/insights/090716/7-ways-amazon-uses-big-data-stalk-you-amzn.asp
オンラインコマースで世界一のシェアを誇るAmazonを現在の地位に導いたのはまさしくビッグデータの活用です。
古くには、ビッグデータ解析によって実現された高精度なレコメンドエンジンを用いてユーザーの購買率・購入金額を上昇させました。その後は、価格の最適調整、物流倉庫での高度な需要予測から逆算する効率的なオペレーションや自動化などが実現されています。
更に、アメリカではAmazonがマーケットプレースの購買データに基づいたアパレルプライベートブランドを立ち上げたり、オンラインの購買データの分析に基づいたラインナップを行うリアル書店等、その豊富なデータと世界最高レベルの解析リソースを活かした施策が多数展開されています。
日本でも店舗やオンラインショップを利用する立場で「この広告、自分の好みをよく把握しているな」と感じる事はあるのではないでしょうか。Amazonプライムで翌日配送が可能なのもビッグデータ活用により需要調整が行われているからです。
今後、パーソナライズと高度な需要予測という流れは更に加速し、近い将来「カスタマイズされた商品を注文して決済をした瞬間に、自宅に届く」といった夢のようなサービスが実現するかもしれません。買い物をして「素晴らしい」と感じた時はビッグデータ活用がその背後にないか想像してみてください。
ビッグデータは小売以外にも、あらゆるビジネス領域で、導入・活用が進んでおり、今回の事例にもあったような、社員一人ひとりが、ビッグデータを操りビジネスを進める日は、すぐそこまで来ているのかもしれません。
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