近年、スマートフォンやタブレットの爆発的な普及によってセンサーや通信モジュールの価格が下落し、ありとあらゆるモノにセンサー、通信モジュール、コンピューターが搭載され、クラウドに常時接続される為の環境が整いました。あらゆる分野で大量のデータが収集され、分析され、得た結果をもとに改善を行ったり、マシンや設備といったモノを最適制御したりすることで、これまでは到達できなかったレベルの価値を生み出すのがIoTです。ついに、本格的に到来しつつあるIoTの時代ですが、先駆けて経済的メリットが大きいビジネスでの活用が加速しています。今回の記事では農業・製造業分野でのIoTの活用事例を海外のケースを中心に紹介していきます。
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海外における農業・製造業のIoT導入事例20選
「Tom Farms」の農業IoT活用 企業名/Tom Farms アメリカ
アメリカ合衆国、ノースインディアナ州で世代を超えて農家を経営する「Tom Farms(トーム ファームズ)」は第一次産業である農業におけるIoTの代表的な活用事例の1つです。彼らは1980年代に起きた不作による経営危機や、保有する19,000エーカーにも及ぶ広大な耕作面積において、日々、天気や気候という不確実性と向き合いながら、ITを用いて農業マネジメントの改善を重ねてきました。彼らはセンサーとGPSを用いた農場全体での温度・湿度等のモニタリング、自動運転のトラクターの利用、収集したデータやオペレーションを可視化するダッシュボード等、アグリテックにおけるベーシックなソリューションを現場で活用しています。
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http://www.tomfarms.com/
オールインワンIoTパッケージ「FARMOBILE PUC」 企業名/Farmobile アメリカ
アメリカ合衆国、カンザス州に拠点を構えるFarMobile(ファーモバイル)が提供する 「FARMOBILE PUC」はセンサーと通信機器を備えた小さいボックス型の機器で、トラクター等の農業用車両にインストールすることで、走行時にデータを収集し、リアルタイムでクラウド上のデータベースに送信する事ができます。データはダッシュボード上でマネジメントに利用できるばかりでなく、データの所有権は農家に属し、そのデータをFarmobileが用意する流通市場で販売することもできます。一次産業に属する農家をデータ企業に転換し得るのはIoTの特徴の1つです。
信頼のIoTプラットフォーム 「Smart Agriculture」 企業名/Thing Worx アメリカ
ThingWorxは2009年に創業し、統合的なIoTプラットフォームソリューションを提供する企業です。彼らはIoT関連領域において、ソフトウェアの領域に強みを持っています。「Smart Agriculture」と名付けられた、彼らのソリューションはIoTには欠かせない、拡張性を重視したプラットフォームとして機能します。彼らは農業向けのIoTアプリケーションを自ら開発して提供するだけでなく、ソリューションを提供するベンダーもこのプラットフォームを利用可能で、ベンダーは信頼性と高いデータ処理能力を備えたクラウドプラットフォーム上にアプリケーションを搭載しエンドユーザーに提供することができます。農業IoTのリーディング企業の1つである、OnFarm社もThingWorxのプラットフォームを利用して、自社のサービスを提供しています。
オープンソースなIoTプラットフォーム「Kaa IoT Smartfarming」 企業名/Kaa アメリカ
KaaもIoTアプリケーションを構築しようとするユーザーやソリューションベンダーに対してプラットフォームを提供しています。その特徴はオープンソースプラットフォームであることです。Kaaは農業に限らず様々な領域に対応していますが、農業分野では既に利用可能なアプリケーションを豊富に揃えています。「家畜のエサが適量与えられているか」、「水や肥料は適切に与えられているのか」といった課題を解決する為のアプリケーションがすぐに実装可能です。IoTの重要課題としてデータが異なるプラットフォーム間を超えて、シームレスに流通できる事がよく言及されますが、オープンソースなプラットフォームはその課題への有効なアプローチの1つと評価されます。
「Agrian」のビジネス特化農業IoTプラットフォーム 企業名/Agrian アメリカ
Agrianはスマート農業分野の代表的なソリューションベンダーであるOnFarmと協業する企業です。他の多くのビジネス領域と同様に、グローバル化と技術の進化によって、日々、より複雑で高度化する農業ビジネスを営む事業者に対し、IoTで収集されたデータを解析・整理してビジネスに利用可能な状態で提供するプラットフォームの運営を行っています。特に、データ分析、農業技術とビジネス、持続可能性、コンプライアンス対応といった、モダンな農業ビジネスで事業者が抱えやすい領域をターゲットにしています。規制対応に必要なドキュメント作成の効率化サービスも定評があります。
謎に満ちたデータ解析メガベンチャー「Uptake」 企業名/Uptake アメリカ
Uptake Technologiesはアメリカ合衆国のシカゴ発のIoT/ビッグデータ関連のスタートアップ企業です。2014年創業と歴史が浅い非公開企業ですが、企業評価額は既に10億ドルを超えるユニコーンの1つです。彼らが着目したのは「建設現場などのフィールドから大量のデータを収集している一方でビジネス活用が出来ていない主要産業」に対して、データアナリティクスに必要な環境を一括で提供し、コスト削減やリスクマネジメント強化をサポートします。また、自社で抱えるデータサイエンティストや研究者、データ関連に長けた法律家といった関連するヒューマンリソースの提供も行い、全面的にサポートを行います。彼らの株主は建設機械を製造するキャタピラー社です。Uptakeは情報をオープンにしない為、当初はキャタピラー社との取組みばかりが話題になりましたが、現在はHP上で航空や農業、エネルギーといった分野の事例も数多く公開されています。
膨大なデータ収集を支えるゲートウェイソリューション「BACnet Gateway」 企業名/BACnet Gateway インド
SoftDEL Systemsはインドに本社に構えるソリューションベンダーで、世界の様々な企業に産業用ネットワーク関連技術や制御系ソリューションを提供しています。彼らは「BACnet」と呼ばれるビル管理システムなどに採用されている通信プロトコルに対応したゲートウェイシステム「BACnet Gateway」を開発しました。空調システムに設置されたセンサーから収集されたデータを「BACnet」に対応するフォーマットに変換します。これによりBACnetを利用したアプリケーションはダイレクトに、センサーから収集された湿度やCo2等のデータを利用する事ができるようになりました。
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http://www.softdel.com/
インダストリアルIoTの先駆け「Integral Plant Maintenance」 企業名/Mercedes Benz ドイツ
「Integral Plant Maintenance」はシーメンスがMercedes-Benz RussiaとそのパートナーであるGAZがロシアマーケット向けのディーゼルエンジンを開発する新規工場のメンテナンス業務を請負う際に開発したテイラーメイドのIoTソリューションです。工場の設備や設置された機械にセンサーを設置し、収集したデータにより、パフォーマンスや整備の状況・必要性を予測・可視化し、能動的に保守・点検対応することで、故障や不具合等による生産のダウンタイムをコントロールすることを実現しました。2013年に運用を開始しており、インダストリアルIoTにおける先駆け的な事例と言うことができます。
北京国立競技場の「Intelligent system」 企業名/Honeywell アメリカ
アメリカのHoneywellは2008年の北京オリンピックのメイン会場となった北京国立競技場に「Intelligent System」と呼ばれる、統合型施設制御システムを開発・提供しました。10万人を収容する事ができる巨大なスタジアムの空調、水道、電源や照明といったエネルギー効率や利用者の快適性に強く影響する要素から、火災報知器やセキュリティシステムといった施設管理に関わる要素までを、一括してモニタリングし、最適制御ができる仕組みを実現しました。ソフト・ハードの両面で高度なテクノロジーが用いられた、大規模IoTソリューションの事例です。
過酷環境にも耐えるIoTインフラ「Remote Wellhead Monitoring」 企業名/MOXA 台湾
MOXAは産業用イーサネットケーブルやスイッチ等のネットワーク設備を提供する台湾の企業です。彼らはオイルやガスの採掘現場などにカメラやセンサーを駆使した監視・制御システムを提供する企業 Terra Fermaと提携しました。オイル、ガスといった天然資源の採掘現場は温度や湿度等の条件によって、センサーやケーブルといったIoTに必要な設備の設置が厳しく、この提携によって両社はそれぞれの強みを活かして、採掘会社が望む信頼性が高いシステムを実現しました。IoTに限らず監視系のシステムは不断な稼働が求められる為、非常に信頼性の高いインフラが求められます。
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http://www.moxa.com/
Sprit AeroSystemsの製造を支える「SAP HANA」企業名/Spirit AeroSystemsアメリカ
航空機製造メーカーのSprit AeroSystemsは元々はボーイング社の工場の1つでしたが、PEが関わって分離・独立された後、現在はボーイングの下請けをしています。間もなくして、ボーイングが新製品サイクルに入ったことで同社のビジネスは順調で大量の受注残を抱えました。下請けというビジネス上利益率が低く、彼らのビジネスはコスト・マネジメントを誤るとすぐに赤字に転落してしまいます。航空機の製造は夥しい種類の部品の受発注があり、そのデータが大量に発生します。同社のシステムは従来SAP社が提供していましが、従来のシステムではデータの処理能力が低く、即時性が高いコスト把握やレポーティングのニーズに対応できませんでした。「SAP HANA」はこの高速化を実現し、ある監査対応のケースではそれまで37時間程度、必要だったレポートの作成がわずか14秒で実現できるレベルに進化し、大幅なコスト削減に成功しました。導入においてはアクセンチュアがコンサルティングを行っています。
IoTで繋がる作業員「Wearables for Connected Workers」 企業名/インテル アメリカ
インテルがHoneywellとパートナーを組んで開発したのは、フィールドで働く作業員の活動や装着するセンサーから収集されるデータをリアルタイムにデータベースに送信し、クラウド上でマネジメントに有用なデータを可視化するソリューションです。この、ウェアラブルなモバイルハブには超省電力のプロセッサーやモーションセンサーなどを搭載し、屋内でのポジショニングも把握することができるので、サイトで働く作業員の動きを高い次元で可視化することが可能です。スタンドアロンかつ小型で常時接続が求められる、この事例のようなIoTソリューションにおいて省エネ技術は非常に重要な役割を果たします。
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http://ehstoday.com/industrial-hygiene/worker-safety-intelligence-edge
http://www.intel.com/content/www/us/en
産業機器のリスクを減らした「ボッシュ・レックスロス」 企業名/ボッシュ・レックスロス アメリカ
ボッシュ・レックスロスは油圧事業を筆頭にボッシュグループの産業機器テクノロジーを担っている会社です。彼らの機器が使用されるフィールドでは小さな計算ミスの積み重ねによって大きな損失を生み出します。これらの産業機器は大量のセンサーが搭載されていますが、大量のデータを処理し、ビジネスに活用できるシステムを備えていなかった同社は、MicroSoftが買収したイタリアのSolair社が提供するIoTプラットフォームを採用し、24時間リアルタイムに機器から集まるデータを分析し監視・制御できる体制を構築しコスト削減やリスクマネジメントの強化を実現しました。
ウェアラブルで従業員の安全対策に取り組む 「North Star Bluescope Steel」企業名/North Star Bluescope Steel アメリカ
North Star Bluescope Steelはアメリカ合衆国の製鉄会社です。彼らがIBMとパートナーシップを組んで取り組んだのはウェアラブルIoTを活用した作業員の安全の向上です。ILOのレポートによると世界の作業現場では毎15秒に151件の事故が起きているそうです。ヘルメットとリストバンドに埋め込まれたセンサーから、リアルタイムに送信されるデータをIBMのWatson(人工知能プラットフォーム)が解析し、危険な状態にある作業員に警告を発信したり、予測した危険な状況を管理者に通知したり、といった安全向上システムを実現しました。更に、現場の温度などのコンディションと作業員のパフォーマンスといった、これまでは分析が難しかった組み合わせの分析も行うことで、想定していなかったインサイトを得て、更なる安全工場や効率化といった改善に繋がったそうです。
インダストリアルインターネットの代表例「Brilliant Factory」 企業名/GE アメリカ
IoT×製造と言えば、「インダストリー4.0」という言葉をよく聞くのではないでしょうか。GEの「Brilliant Factory」はその言葉を象徴する同社の製造革新プロジェクトです。GEといえば産業企業として有名ですが、彼らは現在「デジタルインダストリアルカンパニー」に変化を試みています。「Brilliant Factory」が目指すのは、工場だけでなく、セールスから研究開発といったバリューチェーン上の機能を、垂直にも水平にも高度に繋げることで、データドリブンで効率化された製造体制を構築することです。彼らは自社でこの仕組を活用するだけでなく、社外にもソリューションとして販売していく方針を示しています。
高度な需要予測で省エネな街を実現する「Smart Grid Monitoring」 企業名/EnerNOC アメリカ
「スマートグリッド」はIoTという言葉が登場するよりも前に注目を浴びました。EnerNOCはスマートグリッドをマネジメントするソフトウェアを提供しています。彼らはFeeney Wireless社が提供するモデムを利用し、スマートグリッド上の法人利用者の電気メーターから得た情報を、電力事業者やネットワークセンターと接続し、24時間遅延のない売買処理や需要予測によるピーク分散を実現しました。
製造関連IoT技術の結晶「Giga Factory」 企業名/テスラモーターズ アメリカ
持続可能性の高い移動手段として電気自動車の普及に邁進するアメリカの新興自動車メーカーのテスラモーターズが、2017年に稼働を開始したリチウムイオン電池の生産工場、通称「Giga Factory」は革新的な技術を用いて高次元の製造自動化を実現しています。製造の自動化に加え、1つの工場内で殆どの工程を集約し、同時に大規模に生産を行うことで、「効率化×スケールメリット」を実現し、バッテリー生産コストを極限まで減らそうとしています。この未来の工場は製造関連IoT技術の塊と言われています。日本ではパナソニックとパートナーシップを組んでいます。
鉄道の安全を守るIoT「Go LINC」 企業名/GE アメリカ
「GoLINC」はGEが提供する鉄道向けのIoTプラットフォームです。近代的な鉄道には200以上のセンサーやカメラが設置されており、夥しい数のデータが毎秒収集されています。鉄道事業者は万が一にも事故が生じてしまうと巨額の損失が生じてしまう為、これらのデータを活用して運行状況のモニタリングや異常の検知を行っています。「GoLINC」はモバイルデータセンターと呼ばれ、この高速移動する鉄道からの大量のデータをセキュアにデータベースに送信する役割を担っています。
イビザの観光業を支える「Smart parking in Ibiza」 企業名/Urbiotica スペイン
Urbioticaはスマートシティソリューションを提供するスペインの企業です。彼らはスペインで年間200万人以上の観光客を迎えるイビザの中心部において、駐車場を探す車によって発生する慢性的な渋滞を解決する為に、スマートパーキングのソリューションを提供しました。彼らが設置したワイヤレスセンサーは市内の85箇所の駐車場に設置され、駐車場の空き情報をリアルタイムに把握する事を実現しました。同時にドライバーに利用可能な駐車場の情報を伝える為のパネルも設置し、結果として市内の渋滞を30%緩和することができました。
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http://www.urbiotica.com/en/
過酷環境にも耐える産業用IoTモニタリングシステム「ONEPROD EAGLE」 企業名/ONEPROD フランス
ONEPRODはACOEMグループの産業機器のモニタリングシステムを提供する企業です。彼らはあらゆる産業に現場のデータ収集・解析の為のソリューションを提供していましたが、ネットワークインフラは有線でした。彼らの顧客にはオイルやガスの採掘現場など、過酷な環境でONEPRODのソリューションを必要とする企業が存在し、ケーブルの設置が安全面でも信頼性の面でもハードルになっていました。無線でのデータ収集のインフラを構築する為に、フランスのHIKOB社とパートナーシップを結び、ワイヤレスな統合型データ収集・分析、リモート監視制御といった機能を搭載した「ONEPROD EAGLE」を開発することに成功しました。
“産業領域のIoT(Internet of Things)活用事例を紹介してきました。「アグリテック」や「スマートファクトリー」といった「言葉は聞いたことはあるが、具体像がまだ身近に少ない事例」が今回紹介した事例の中にも多かった印象があります。工場や農場など都会から離れた所で活用される産業関連のテクノロジーは多くの人が気づかない所で浸透し、変貌に気付いた時には、既にビジネス環境や実際の生活に大きな影響を及ぼしています。今後、IoTのビジネスやサービスでの活用は更に加速する事が予想され、読んで頂いている方が目にしたり、実際に活用したりする機会が増えることは間違いありません。そんな、産業界のIoT動向に今後も目が離せません。
▼詳細はこちら
http://www.acoemgroup.com/
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