
中尾様のご経歴について
コトラ加賀:
まず中尾様のこれまでのキャリアについてお伺いできますでしょうか?
中尾様:
外資系コンサルティング会社に新卒入社した後に転職した外資系生命保険会社で破綻した日本の生命保険会社の買収プロジェクトに参加したのがきっかけで投資の道に進みました。
その後、アドバンテッジパートナーズ等でPE投資を経験し、グリーに入る前まではアント・キャピタル・パートナーズで国内外のベンチャーキャピタル(VC)やPEファンドのセカンダリー投資やバイアウト投資を行っていました。
コトラ加賀:
その様な中、グリーさんへのご入社を決められたきっかけをお聞かせください。
中尾様:
実は転職するつもりはあまりなかったのですが、たまたまコトラさんが掲載していた求人広告を見たのがきっかけです。その求人広告には、「VCに対するファンドオブファンズ(FoF)組成を開始するにあたっての責任者募集」と書かれていました。
VCに対するFoFは、世界でもなかなか類を見ない珍しいものだと感じ、非常に興味を持ちました。
アントキャピタルではVCやPEのLP持分を買い取るセカンダリー投資もやっていたことから、今度はFoFを通じてプライマリーでLP投資を実践できる非常に面白いポジションだと思い、この求人にのみ応募してみたのです。
コトラ加賀:
中尾様のご経歴上、ベンチャー投資やベンチャー支援のご経験はそこまで多くありませんが、バイアウトファンドでのご経験との違いはどんなところにありますか?
中尾様:
バイアウトファンドの主な投資先は成熟企業です。
事業を急成長させるというよりは、メインとなるのは既存事業の収益力の強化や、M&Aロールアップなどでの拡大です。レバレッジをかけて買収しますので、基本的には、借入金を着実に返済して株主価値を上げていくことが狙いになります。
リターンの要素としては、①いかに収益力(主にはEBITDA)を高めるか、②借入金を返済するか、③割安なマルチプルで投資してより高いマルチプルで売却するかになります。

一方で、VCの投資先スタートアップは、調達した資金を元手に事業を猛スピードで成長させ、さらに次のラウンドで追加の資金を調達して非連続の成長を実現していくことが必要です。
安定をベースにするのではなく、変化することが求められる点が大きな違いです。
私はそうしたことに長けているVCを探し出して、FoFからそうしたVCにLP出資をする活動を行っています。
バイアウトファンドとVCとでは投資のスタイルが違いますが、徐々にその垣根がなくなってきているというのもあります。
例えば、VCでもミドル・レイター投資を専門にするところはバイアウト的なハンズオンをするケースもありますし、M&Aロールアップなどもスタートアップエコシステムの中の大きなテーマになっています。
コトラ加賀:
経験およびスキルに関して、何が一番VCのLP投資に活きていると思いますか?
中尾様:
私自身前職でセカンダリーでのLP持分の取得を行っていたので、LP投資のためのDDという点で言えば、一通りのことを経験していました。
敢えて他の人との違いでいえば、自分はLP投資だけでなく、GP運営会社側にも長年いた経験が役立っていると感じています。
LP投資を検討する際に、GPの実態を現実感をもってみることができますし、トラックレコードについてもその背景にどういう投資理念と投資活動があるかについてリアルに探り出していく点が活きていると思います。
LP投資先のVCのアドバイザリー・コミッティ(LPAC)に入ったり投資委員会のオブザーバーになったりすることもありますが、可能な限りGPの視点でも少しでもお役に立てるように発言することを心がけています。
グリーベンチャーズとは?
グリーベンチャーズの全体観
コトラ加賀:
では次に、現職のグリーベンチャーズの全体観についてお聞かせください。
中尾様:
グリーベンチャーズでは「スタートアップ投資」と「ファンド投資(LP出資)」の二つの事業を行っています。
私はVCにLP出資を行うファンド投資を担当しています。
グリー入社直後に120億円のFoFを設立し、年間約25億円ずつ4年間かけて日本のVCを中心にLP出資をしています。
コトラ加賀:
2022年にFoFの「GREE LP Fund JP1投資事業有限責任組合(JP1)」が設立された背景もお伺いできますか。
中尾様:
グリー自体は元々バランスシートからLP出資を行っていました。その規模は日本だけでも数百億円に及び、事業会社としては最大規模になっています。
しかし、そのままでは他のアセットと混在してしまう可能性があります。
現在までのところVCへのLP出資は非常にうまく成果を上げていたため、これをFoFの枠組みの中でしっかりとトラックレコード化し、どのような運用成績が出るのか可視化する試みの一環としてJP1を設立しました。
そして将来的には1号ファンドのパフォーマンスを元に、2号ファンドではグリーグループ以外にも事業会社を中心に外部のLP投資家からの資金も募ることを計画しています。
なぜかというと、我々のようなVC特化型FoFは、事業会社のCVCやオープンイノベーション活動と非常に相性が良いということが分かってきたからです。
少し説明させていただきます。FoFでは複数のVCに分散投資をしますので、その先のスタートアップを数多く知ることができます。
そのためFoFを通じて、事業会社は多くの優良スタートアップの効率的・安定的なソーシングが可能となります。そのことが事業会社の戦略リターン創出の確率を高めることができるのではないかと考えています。
事業会社とスタートアップの連携においては、様々な事業領域・ステージのスタートアップに接し、お互いにとって最適な連携オプションを見極めることが重要だからです。
このようなFoFを通じた安定的なソーシングが、事業会社にとって長期戦が必要なCVC活動の安定・継続化に貢献できると考えています。
次の2号ファンドではこうした目標も持ってスタートアップエコシステムに貢献していきたいと考えています。
グリーベンチャーズの歴史
コトラ加賀:
もう少しグリーベンチャーズさんの歴史についてもお伺いできますか?
中尾様:
歴史的にいうと、最初は2010年に日本のVCに対するLP出資を始め、その4年後にスタートアップ投資を始めました。グリーベンチャーズの源流はここからはじまります。
さらにそこからアメリカにも展開し、現在グループでは日米でVCファンドへのLP出資とスタートアップ投資の両方を手掛けています。
規模に関しては、日本のVCへのLP出資は数百億円、アメリカでは数十億円という規模になります。
スタートアップ投資は日本では数十億円、アメリカでは百億円規模です。
2010年という年は、リーマンショックが起きた直後でした。そのためVCにLP出資をする主体が今とは比べ物にならないくらい少ない状態でした。
グリーはその時期に果敢に様々なVCへLP出資をしており、結果として今ではかなり大きくなったVCの初期のファンドに投資をすることができました。
そのおかげでVC業界内での信頼が厚く、現在では大小合わせて様々なVCと長期的なリレーションを築けています。
中尾様が担当されている業務内容について
コトラ加賀:
中尾様のミッションとして取り組まれている仕事内容についてもう少しお伺いできますか。
中尾様:
VCに対するLP出資について詳しくお話しします。現在、日本では政府が打ち出している「スタートアップ5ヶ年計画」の後押しもあり、VCのファンドレイズが盛んに行われています。
そのような中、私たちグリーベンチャーズは長年にわたりLP出資を行ってきたため、ほぼ全てのファンドの方からファンドレイズのご相談を頂くことができています。
逆に言うと、私たちの知らないところでファンドが立ち上がっていて、いつのまにかクローズしているということはほとんどない状況です。

また、弊社では、様々なVCとファンドレイズの面談を行っていますが、VC業界の特徴として若手キャピタリストが独立するケースが多いということが挙げられます。
こうした新興系VCでは、ファンドサイズは30~50億円ぐらいものが多く、どういう強みを打ち出してLP出資を獲得していくか日々差別化戦略が練られています。
このような新興系VCの壁打ちなどもさせて頂くことが多いです。
最終的には、コンタクトしたVCを得意とする投資領域や投資フェーズなどの軸によってマッピングし、年間の予算の中からどのVCに投資すべきかを絞り込んでいきます。
過去からお付き合いのある優れたVCに投資するとともに、若くて独自色を持った新興系VCにも投資をすることを心がけています。
そのようにして候補を絞り込んでいき、最終的に本格デューデリジェンスのフェーズに移行します。
先ほど申し上げた通り、グリーベンチャーズは2010年から長きにわたるVCへのLP出資経験があります。
そのため、出資を検討しているVCの何となくこの辺がよさそうだというあいまいな評価では投資を決定しません。
もっと細かく、各投資プロセスにおいて他のVCと比べてどういう点が優れていて差別化ができているのかという点を見極め、他のVCとの相対評価の中で強みを見出し、よりよいVCに投資を行っていくことができるという点が特徴です。
コトラ加賀:
よりよいVCを見極める上で、中尾様が特に重視している点はありますか?
中尾様:
私自身もファンド運営会社に長年いた経験があるので、そのバックグラウンドを活かしながら、対象ファンドの強みを解像度高く理解することに努めています。
例えば、VCへのLP出資を検討する際に、単にトラックレコードなどの資料を見るだけではなくて、社内文化や雰囲気、メンバー構成の変遷、投資先との接し方などをつぶさに観察することを大事にしています。
また投資の種まきから刈り取り迄のプロセスも重視しています。どのように案件をソーシングしているのか、そしてリード投資家のポジションをどのように獲得しているのか。バリュエーションの考え方や交渉、それらの契約への落とし込み方、投資実行後のバリューアップ活動や次ラウンドの設計なども見させていただきます。
最終的なEXITをどのように行っているかも重要な点です。
このような点では、一連の実務はVCとバイアウトで共通することも多いので、それらをよくよく見て他のVCとの差別化ポイントがどこにあるのかを探し出します。
繰り返しになりますが、グリーには2010年からVCに対するLP出資を行ってきた歴史があるので、そのVCが素晴らしいという絶対的評価だけでなく、色々な角度から様々なVCを相対的に評価し、選りすぐりのVCにLP出資していくことができます。
ベンチャーキャピタリスト求人増加の背景
コトラ加賀:
ここ1〜2年のVCやCVCの求人はかなり増えており、その増加の背景は新規ファンド設立のための募集であるケースが多いのですが、そういった観点からもエコシステムの拡大の影響があるのかなと思います。
そのあたり中尾様のご意見をお伺いできますでしょうか。
中尾様:
この10年でファンドの設立数が約10倍になるなど、VCに非常に大きな注目が集まっています。
特に日本は政策的な支援を受けているため、VCの設立も増えています。
それに伴いキャピタリストの採用も増加しているのではないかと思います。
コトラ加賀:
政策の支援を受けて環境が整っているというのは、VCとしても非常に追い風になっているという認識なのですね。
これまでは少なかった海外VCや研究開発型VC、大学系VCも増えつつあり、インパクトファンドなどもかなり増えてきていますよね。
中尾様:
おっしゃる通り、研究開発型のディープテックやインパクトファンドは、VCの潮流の中でも最近特に強く出てきています。
なぜかというと、2021年末から主にIT系スタートアップで過熱していたバリュエーションが調整しました。またこれらのセクターはどうしても日本の商慣習や法制度等に適合するように作られるため、グローバル化が難しいという側面があります。
その様な状況下で、ディープテックやインパクトファンドなどが脚光を浴びるようになったのだと思います。
有力なプロダクトの開発に成功すれば、これらの分野の方がグローバル化しやすい特徴があり、昨今の円安もテック系スタートアップの方が恩恵を受けやすいのではないかといった事情もあると思います。
スタートアップエコシステムの課題
コトラ加賀:
スタートアップエコシステムの多様性は増している一方で、中尾様から見てどこに課題があるとお考えですか?
中尾様:
やはりユニコーン企業の数が圧倒的に不足しています。
これに対してよくミドル・レイターステージ以降の資金の出し手が不足しているということが言われます。
政府のスタートアップ5ヵ年計画では、ユニコーン創出のため、ミドル・レイターステージへの資金供給を公的資金などを通じて注力すると打ち出していますが、資金を供給すればよい問題なのか疑問だという声もあります。
コトラ加賀:
確かに、資金の出し手は政策の効果で増えるかもしれません。
一方で、投資対象となるユニコーン予備軍の企業をどう育てればいいのでしょうか?
中尾様:
VCによる支援のさらなる高度化が必要となると考えています。
アーリーステージのスタートアップに対する支援では、プロダクトやビジネスモデル作りのアイデア出しや壁打ち相手になることが中心ですが、ハンズオンを標榜するVCでも支援の濃淡においてかなりの差があると言われているのが実態です。
さらに、ミドル・レイターステージまで進んだスタートアップへの経営支援はまた異なる側面があります。
理想としては、資本政策を含む中長期の事業戦略を精緻化した上で、戦略遂行に必要な意思決定を行う経営会議体を設置・運営し、その中で議論していく議題の設計・議論のベースとなる定量情報の整備、それらを落とし込んでいくための営業戦略・開発ロードマップの策定と実施、といった支援が挙げられます。
コトラ加賀:
ますますVC側のレベルアップも求められそうですね。
中尾様:
企業の経営支援はバイアウトファンドの得意分野です。
すべてが一律にスタートアップに適用できるとは思いませんが、参考になるものも多くあるでしょう。
ですから、バイアウトファンドからVCへのキャリアチェンジがもっと増えると面白いのではないかと思います。実際、ここ数年でAngel Bridgeの河西氏(元ユニゾン)、ジャパンインクルージョンファンドの村上氏(元アドバンテッジパートナーズ)、Boost Capitalの高橋氏(元MBKパートナーズ)など、一流のファンドからVC業界に飛び込んでくる人材が増えています。VC業界としても人材の層の厚みが増すのでポジティブです。
コトラさんが果たしていかれる役割もますます大きくなってきていると思います。

とは言え、VCはバイアウトファンドのように経営の支配権を押さえるビジネスモデルではないので、投資先の経営陣や協調投資するVCを束ねて合意形成を積み重ねていくことが必須です。
高いコミュニケーション能力やEQを持った人材が活躍していくと思います。
コトラ加賀:
今後のスタートアップ業界の見立てについてもグリーさんの歴史の長さや、先駆者としての強みが伝わってきます。
VCへのLP出資で業界を引っ張っている存在という印象を受けますが、中尾様個人としては業界全体に対しての取り組みに関しては、どういったことをお考えなのでしょうか。
中尾様:
VCに対するLP出資が特に勃興しだしたのは、この5年ほどだと認識しています。
VCのLP投資家はこれからさらに洗練されていくことが期待されています。
優れたVCに投資をしてパフォーマンスをあげるのはもちろんのこと、GPとLPの対話を深め、互いの向上に資するような活動をしていくことが必要です。
個人的には、交流のある機関投資家や金融機関、事業会社LP投資担当者と「LP出資研究会」を立ち上げました。
その中で、ファンドDDのノウハウや投資後のモニタリング活動のベストプラクティスの共有などを行っています。この活動は大変勉強になることが多く、LP投資家同士で切磋琢磨し続ける場を提供していきながら、将来的にはより多くの方にご参加いただけるような活動基盤をしっかりと作りたいと思っています。
求人のご案内
グリーベンチャーズ株式会社
にご興味がある方へ
今回特集しましたグリーベンチャーズ株式会社様の求人をご紹介します。
キャピタリスト(経験者採用/GP候補)ポジション
【ポジション概要】
本ポジションは、投資チームの一員として、業界リサーチ、投資先候補のソーシング、デューデリジェンス、投資契約、モニタリング、バリューアップなど、ベンチャー投資に関する一連の業務をご担当頂きます。
【主な業務内容】
■投資検討
■業界リサーチ
■投資先候補のソーシング
■デューデリジェンス
■投資先モニタリング
■投資先に対するあらゆる支援
投資チーム アソシエイト ポジション
【ポジション概要】
グループの投資事業では、「VCファンド」と「スタートアップ」への投資を行なっており、事業会社としては日本でも有数の規模となっています。
当事業をより推進していくために、スタートアップ投資を担っていただける方を募集いたします。
【主な業務内容】
■投資検討
■業界リサーチ
■投資先候補のソーシング
■デューデリジェンス
■投資先モニタリング
■投資先に対するあらゆる支援
コトラでは業界動向や今後のキャリアについて無料キャリア相談会を開催しております。
最新の採用動向や非公開求人情報などの情報提供をさせていただきます。
また、ざっくばらんな意見交換・ご相談をさせて頂きながら、理想のキャリアを歩むためのアドバイスをさせていただきます。 お気軽にご相談ください。
登壇者紹介
ゲスト

グリーベンチャーズ株式会社
取締役・パートナー
中尾 俊輔 様
慶應義塾大学経済学部卒業後、プライスウォーターハウス・クーパース・コンサルティング入社。その後、アドバンテッジパートナーズ、ブラックロック・ジャパン、アント・キャピタル・パートナーズなどでプライベートエクイティ投資・セカンダリー投資に従事。
三井物産企業投資ではグループの総合力を活用した財務リターンと戦略リターンの両立を行う事業参画型投資を推進。2022年グリーベンチャーズ株式会社入社。
独立系ファンドでの純粋金融投資だけでなく、事業会社での投資経験の両方を有する。
GREE LP Fund JP1号投資事業有限責任組合(ファンドサイズ120億円)を通じて、主に日本のVCに対するLP出資に携わる。
インタビュアー

株式会社コトラ
エグゼクティブコンサルタント
加賀 達也
一橋大学商学部を卒業後、大手生命保険会社に入社。
運用部門不動産投資領域における企画およびリスク管理業務に従事後、コトラに入社。
コトラ入社後は、PEや不動産ファンド等のオルタナ領域にて、主にハイクラス層の転職・採用を支援。
[ 担当業界 ]
PEファンド、不動産ファンド、投資銀行、財務アドバイザリー(FAS)、資金調達/IR、ゲートキーパー