保険業界:業界動向、アクチュアリーのニーズと企業一覧

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保険業界の動向

保険業界は、少子高齢化やデフレ経済の長期にわたる影響に加え、米国や欧州の経済危機による市場の混乱や東日本大震災の発生による支払増の影響により、厳しい環境を迎えています。各社は合併、株式会社化、積極的な海外展開、リスク管理の高度化など、様々な対応を取っています。
また、会計上の規制では、国際会計基準(IAS)へのコンバージェンスや新たなソルベンシー規制への移行という大きな変化の過渡期にあります。

保険業界の再編や海外M&Aをにらんで株式会社化

損保業界では、2010年には三井住友海上グループ、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険の経営統合、損保ジャパンと日本興亜損保の共同持株会社発足と、大手損害保険会社を中心とした大型合併が行われました。
生保業界ではこれに伴う損保子会社生命保険の合併のほか、2008年かんぽ生命と日本生命が業務提携を開始、2009年住友生命と三井生命が共同出資による生命保険子会社「メディケア生命」を設立と、再編の動きが現われています。2010年の第一生命の株式会社化は、少子高齢化による国内市場の縮小に加え、こうした再編の動きに対応したものといえます。
株式会社化で柔軟な資金調達が可能となり、大型の企業買収が行いやすくなるうえ、海外の保険会社を買収し、海外市場への進出を図る狙いもあると考えられています。

銀行窓販解禁による外資系生保、その後ネット系の台頭

保険商品の銀行窓販解禁は、2001年以降段階的に行われ、2007年に全商品が解禁となりました。特に保険業界にとって影響が大きかったのは、2002年の個人年金保険の解禁で、外資系生保会社が、日本で広く展開する大きな契機となりました。それまで、日本の生命保険の営業は女性を中心とした保険営業員(いわゆる『生保レディー』)によるものが主流でした。
それまでの外資系生保は、通販やテレビCMに注力したアリコジャパン、ガン保険などをほぼ独占的に販売したアフラック、ライフプランナーによるコンサルティング営業が強みのプルデンシャル生命などが、それぞれ特徴的な営業を行っていました。
また、破綻した中堅生保を買収することで営業の足がかりとした外資もありました。 このような中で、銀行窓販の解禁は、外資にとってはチャネルを拡充する絶好のチャンスとなりました。
特に、2003年に個人年金保険で1兆円以上の新規契約を獲得したアリコジャパン、東京三菱銀行等と連携して個人年金保険の販売に乗り出したマニュライフ生命、幅広い証券会社や銀行にネットワークを広げて業績を上げたハートフォード生命などが、代表的な成功事例です。
(ハートフォード生命は、金融危機による運用難のため商品の多くが元本割れとなり、2009年以降、新規取り扱いを休止しています)
銀行窓販に加え、インターネットを通じた販売も、新しいチャネルとして台頭してきています。2008年にSBIアクサ生命(現ネクスティア生命)、ライフネット生命が、インターネット専売の生命保険会社として営業を開始しました。ライフネット生命は2009年度におよそ2万件の新規契約を獲得し、今後の収益動向に注目が集まっています。

生保は死亡保障から、「長生き」リスクへのシフト

少子高齢化が進むにつれて、死亡するリスクへの対応から「長生き」リスクへの対応へと変化しています。このため、従来主力であった死亡保障商品(定期保険、養老保険、定期付終身保険など)が減少し、医療保険及び終身保険が増加しています。今後も更なる高齢化や医療技術の進歩、医療費の自己負担増が見込まれこの傾向は続いていくものと予想されます。
個人年金保険の新契約は、減少傾向でしたが、銀行窓販開始により上昇に転じました。 その中で変額年金保険は、当初は急増したものの、運用成績と株価の連動性が高いため、2008年のリーマンショックの影響を大きく受けてしまい、新規の販売を停止する保険会社も現れ、当面は伸び悩みが予想されています。

生保の資産は企業貸し付けから有価証券投資へ

生命保険協会加盟会社全体の総資産は、バブル期の100兆円程度から、その後の20年でおよそ3倍に拡大しています。このうちおよそ100兆円は2007年10月に日本郵政公社の民営・分社化により誕生し生保協会加盟会社となったかんぽ生命の総資産であり、同社の巨大さを物語っています。
かつて生命保険会社は、企業向けの貸付に注力していました、その比率は2000年ごろには大きく低下しました。高度経済成長が終焉し、企業の設備投資意欲が減退したことと、直接金融の割合が増加したことが大きな要因です。
このため、貸付金のように金利収入が見込まれる資産として、国内債券や外債の運用比率が高まりました。特に80年代後半の高い予定利率で集めた契約を運用し配当を確保するために、高利回りの外債、中でも米国債投資に向かいました。一時外債残高は減りましたが、その後は国内の超低金利環境から、内外金利差を狙う外債投資が再び活発化しています。

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損保は自動車・火災は伸び悩み、第三分野へシフト

損害保険の商品は、かつては自動車保険と自賠責保険が過半を占め、一部に火災保険や海上保険もありましたが、1996年以降規制緩和により、いわゆる「第三分野」保険の販売がクローズアップされるようになりました。従来第三分野の商品は、外資や中小のみに認められていましたが、大手損保の参入が解禁されて以降、最も競争が激しい分野として市場拡大しています。中でも、「がん保険」、「三大疾病保険」、「介護保険」は販売を大きく伸ばしています。
また、掛け捨てを嫌い、貯蓄型を好む国民性に合致した積立型保険の販売は一時増加しましたが、低金利環境にあって保険料は減少傾向を示しています。
今後は、我が国の少子高齢化の社会構造から、自動車や住宅の販売台数・着工件数の増加とそれに伴う自動車保険や火災保険の販売増加は見込みがたい一方、生命保険商品のトレンドと同様、第三分野商品の堅調な拡大が予想されます。また、積立型保険の販売は低金利の状況下では低調に推移するものと考えられます。

損保の資産はインカムゲイン重視へ

損害保険会社全体の運用資産合計は、1980年代の10兆円程度から、2000年代には30兆円程度に拡大しています。
資産構成は、生保と同様に、80年代以降預貯金や貸付金が減少し、国内債券や株式、外国証券が増加傾向にあります。
かつて損保会社は期間の短い運用が主体でしたが、積立型保険の販売増加に伴い満期返戻金や配当金を確保するため、インカムゲインを求める投資スタンスと変わってきたことがその理由です。多くの積立型保険の契約期間は3年から5年となっており、これに対応する資産として投資期間が3年から5年のものを選択することが重要になっています。

リスク管理とALM:ALM運用が課題

最近の保険会社の自己資本規制では、経済価値ベースの負債評価や、資産負債の一体的な金利リスクの計測等が主要テーマになっています。このためリスク管理部門では、負債評価の具体的な手続きやシステムの整備と、負債と整合的な資産運用(ALM運用)が課題となっています。
生保の保険契約は、1.件数が多すぎる、計算実行に時間を要する、2.付加オプションが多様すぎる、といった理由から、全件の経済価値を予測し試算することは非常に困難でした。しかし、コンピュータの処理能力の向上に伴い、モンテカルロ・シミュレーションなどによる予測が可能となってきています。
また、損保の積立型保険については、運用利回りの確保や、解約・満期の際の資金確保が必要です。例えば、流動性が低い資産や価格変動の大きい資産のウエイトを増やすことは、資金流出時に必要な資金を手当てできなかったり、換金時に損失が発生したりする可能性があります。また、市場を無視した高い予定利率の契約を集めても、運用が困難であることから、運用環境等を踏まえて、積立型保険の予定利率設定や販売方針を立てる必要があります。

ソルベンシー規制の変化:経済価値ベースの負債評価を

ソルベンシーとは、契約した保険給付について、「通常の予測を超える損害」に対する支払い能力のことを言います。 保険会社は「通常予測される損害」には責任準備金で備えていますが、大規模自然災害などによる「通常の予測を超える損害」は、自己資本などで備えることとなっています。このような自己資本等の備えの割合をソルベンシー・マージン比率と呼び、基準を満たすよう規制されています。
「通常の予測を超えるリスク」は、保険リスク、予定利率リスク、資産運用リスク、経営管理リスク、巨大災害リスクに細分化され、それぞれ一定の方法で算出します。 この場合、それぞれの細分化されたリスクごとに一定の係数を掛けることで対処できるというメリットがある一方、様々な資産や保険を類型化して計算するため、会社全体の経営・運用実態と合致しているとは限らないというデメリットがあります。
ソルベンシー・マージン比率は、まず200%未満になると改善計画の提出が求められ、さらに100%未満では支払い能力の充実措置の命令がなされます。0%未満になると、業務の全部または一部の停止という早期是正措置の対象になってきます。
一方で、保険会社の健全性をみるときには『実質資産負債差額』、もしくは『実質純資産』と言われる基準があります。この基準は、資産と負債をそれぞれ評価して比べるものですが、資産は時価評価するのに対し、負債に関しては簿価評価のままとなっています。そのため、たとえば金利が上昇すると債券価格の下落(資産の減少)だけが反映されることで、実質的には経営状態が悪くなるわけではないにも拘らず、『実質資産負債差額』の基準では業務停止命令を受ける可能性が高くなるという不都合な点があります。
そこで、欧州のソルベンシーⅡを始めとして、経済価値ベースの負債評価を目指す取り組みが世界的な潮流になっています。日本でも、経済価値ベースのソルベンシー基準の策定・実施に向けて、金融庁が全保険会社を対象にフィールドテストを行い、その結果を踏まえて日本アクチュアリー会や損害保険料率算出機構等と連携し検討を続けています。

リスク管理:複雑化するリスク、管理手法も高度化

リスクは高度化・複雑化・多様化しており、リスク管理は重要な課題です。各リスク特性に基づいて個別の対応を進めるとともに、統合的な管理も行っていこうとしています。 保険会社を取り巻くリスクの種類は主に以下の5つがあります。

1.保険引受リスク

保険引受リスクとは、経済情勢や、保険事故の発生率、事業費支出等が保険料設定時の予測に反して変動することにより、保険会社が損失を被るリスクをいいます。保険商品の開発にあたっては、保険契約の長期性に留意した保険料率の設定を行います。生命保険商品や第三分野商品の引受時には、被保険者の健康状態の診査・査定を適切に実施することにより、保障責任を全うするためのリスクコントロールを図っています。

2.資産運用リスク

資産運用リスクには、会社が保有する資産の価値が変動するリスクや、投融資先が倒産するリスクがあります。これらのリスクはその性質から「市場リスク」「信用リスク」「不動産投資リスク」の3つに分類されます。

◆市場リスク

金利・為替・株価等の変動により、保有資産の価値が下落するリスクです。保険会社では、資産の残高や含み損益を日々管理している他、保有限度額や損切りルールなど、リスク・リミットを設定しています。 体制面では、取引を行うフロントと事務を行うバックの分離を行い、牽制・チェック機能を確保すると同時に、リスク管理の専門担当部署(ミドル)でモニタリングしています。 さらに、代表的な市場リスク計測手法である「バリュー・アット・リスク(VaR:最大損失予想額)」を用い、市場リスクを数値で把握することにより、より精緻な市場リスクの管理を行う会社もあります。

◆信用リスク

融資先や債券の発行体などの財政状態・経営状態が悪化し、支払いが遅延したり、回収できなくなるリスクです。このうち、投資先の国の為替事情や政治・経済情勢等により保険会社が被るリスクを、カントリー・リスクといいます。保険会社では、個別取引ごとの審査管理と信用リスク全体の管理の2通りを行っています。さらに、信用リスク量の計測として、モンテカルロ・シミュレーションによる信用VaR(バリュー・アット・リスク)を算出し、その結果を与信ポートフォリオの運営方針に反映させることで、リスク量を許容範囲内にコントロールしている会社もあります。

◆不動産投資リスク

市況の変化により不動産価格自体が下落したり賃貸料等が減収になるリスクです。保険会社では個々の投資案件について、投融資執行部門とは独立した審査部門による審査を実施しています。また、投資利回りや価格に関する警戒域を設定するなどして、リスクと比べて投資効率の低い不動産残高の削減および効率性の向上といった取り組みもあります。

3.事務リスク事務

リスクとは、役員・職員および保険募集人が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正等を起こすことにより会社が損失を被るリスクです。事務リスクの管理にあたっては、保険会社では保険契約者からの苦情や誤処理等による事務ミスの発生事象の収集・分析を通じた全社的な事務リスクの把握と、再発防止策の策定およびその効果性の検証に取り組んでいます。
業務に関する規定・マニュアルを整備し、不具合の発生や環境の変化に応じて適宜見直しを行い、内部監査部門・支社による重層的な点検により、事務処理結果の正当性の確認および改善指導の運営を実施しています。

4.システムリスクシステム

リスクとは、システムのダウンまたは誤作動、不備・不正使用等により保険会社が損失を被るリスクです。保険会社では、情報システムの安全確保および顧客情報・企業情報の漏えい防止のため、情報管理規定などの規定を策定し、各種セキュリティ対策を実施しています。また、首都直下型地震やコンピュータ犯罪など、想定される巨大リスクに対するコンティンジェンシー・プランを整備し、危機に対して迅速に対応できる体制を整えています。

5.流動性リスク

流動性リスクは、資金繰りリスクと市場流動性リスクに分けられます。 資金繰りリスクは、新契約の減少に伴う保険料収入の減少や巨大災害など予定外の資金流出により資金確保を迫られ、著しく低い価格での資産売却による損失を被るリスクをいいます。
市場流動性リスクは、市場の混乱等により円滑な取引ができなくなったり、それによって著しく不利な価格での取引によって損失を被るリスクのことをいいます。

アクチュアリーの活躍の場は増えている

生損保はもちろんのこと、リスクマネジメントファームや組織・人事系のコンサルティングファーム、信託銀行、再保険会社など、アクチュアリーの方の活躍の場は増えています。

1.生命保険会社【主計(数理)】

◆決算業務・・・数理システムを用いた責任準備金計算、事業成績等の統計資料や報告書作成
◆収支予測・・・数理システムを用いた保険関係収支の推定、経営効率指標の分析、経済価値ベース負債評価
◆レート作成・・・保険料率、CV率等の各種レートの計算、検証、システム登録

【商品】
◆商品開発・・・新商品の収益性検証、リスク分析、保険料率の決定、保険料・責任準備金算出方法書の作成・検証、生命保険商品の調査・研究・企画立案、営業職員および代理店に関する手数料率の企画・立案、保険商品認可に関わる金融庁との折衝、収益管理

【リスク管理】
◆収支予測・・・数理システムを用いた保険関係収支の推定、経営効率指標の分析、経済価値ベース負債評価
◆ALM・・・ALMリスク管理手法の検討、ALMリスク管理の実施と報告
◆システム・・・新しい数理システム導入のサポート

2.損害保険会社【経理】

◆収支分析、IBNR計算など決算における数理業務

【商品開発】
◆新商品開発に関わる収益性検証、リスク分析、保険料率の決定
◆保険商品認可に関わる金融庁との折衝

3.信託銀行

◆年金数理業務・・・企業年金の制度設計、数理計算
◆企業年金コンサルティング・・・退職給付制度コンサルティング、年金運用コンサルティング
◆年金システム企画・・・年金信託、年金特金のファンド、資金管理、年金数理、加入員管理等のシステムに関する企画・開発推進

4.再保険会社【収益管理】

◆収益分析、引き受けリスク分析、損益分析、市場分析

【商品開発】
◆保険料算出の基礎、保険料・責任準備金算方書の作成・検証

【顧客管理】
◆生命保険会社などの顧客へのコンサルティングおよび再保険関連業務、顧客の業務・財務分析を通じた個別戦略の開発

【その他】
◆損害率モニター、最終損害率予測、保険料率水準適正性分析、生命保険戦略、マーケティング

5.監査法人、リスクマネジメントファーム、組織人事コンサルティングファーム

【保険会社に関する業務】
◆監査
◆保険計理人の確認業務
◆EV評価に対する第三者意見
◆資産・負債分析、準備金分析など財務レポーティングの支援
◆保険リスク管理のアドバイザリー・サービスの提供
◆M&Aおよび戦略的提携にかかわるアドバイザリー業務
◆商品開発の支援および商品の収益性・リスク分析
◆ALMシステム構築支援
◆資産負債キャッシュフロー計算システムを活用したリスク管理業務支援

【退職金・年金に関する業務】
◆事業法人に対する退職給付関連の監査
◆企業年金分野のアドバイザリー業務
◆退職金制度、年金制度の制度設計
◆アセットマネジメント(年金資産ポートフォリオ、確定拠出年金の投資教育)
◆M&Aのデュー・ディリジェンスにおける退職給付債務の評価

保険業界の企業情報

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この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)