GHG排出量管理システムはGHG(温室効果ガス)の排出量を「見える化」することで、企業に求められる環境データ開示に役立てることのできるツールの1つです。
ESG投資の伸長や東証プライム市場におけるTCFD開示の実質的な義務化、有価証券報告書内のサステナビリティ情報記載欄の新設などを受け、国内では企業のサステナビリティ情報開示の流れが加速しています。急速に拡大する情報開示の流れは各企業に大きな負担となっていることもまた事実です。国内ではそうした課題に対応するように様々なサービスがリリースされています。
本記事では、そんなGHG排出量管理システムについて、現在の情勢と関わる業務について解説していきます。
GHGと各種枠組み
GHG(温室効果ガス)は大気中に含まれる熱を吸収する性質を持つガスです。2015年に採択された「パリ協定」では、産業革命以降の気温上昇を2℃ないし1.5℃に抑制することが世界の目標として定められ、GHG削減は実現の鍵として重要視されるようになりました。現在世界には排出量の可視化や削減のための様々な枠組みが存在します。
GHGプロトコル
GHGプロトコルはGHG排出量の算定と報告の世界共通基準です。2011年に公表された同基準では、1企業のみのGHG排出量だけでなく、サプライチェーン全体のGHG排出量も注目されています。そのため、GHGプロトコルを基準として指定される各種枠組みでもサプライチェーン全体でのGHG排出量削減が求められることとなりました。
Scope1(直接排出量)
Scope1は事業者自らが所有・管理する工場などから排出されたGHGの排出量のことを指します。具体的には、燃料の燃焼や自家発電、製造装置から排出されるGHGなどが含まれます。
Scope2(間接排出量)
Scope2は事業者が消費する購入電力の発電に伴うGHGの排出量のことを指します。購入電力を再生可能エネルギーにすれば、GHG排出を削減することができるほか、社内での省エネ活動による電力総量の削減もScope2の削減に繋がります。
Scope3(その他の間接排出量)
事業者が所有・管理していない排出源から排出されるGHGのうちScope2に含まれないものを指します。「購入した製品・サービス」「雇用者の通勤」「販売した製品の加工」「投資」など15項目に分類され、企業活動に関わる様々なステークホルダーから排出されるGHGが含まれます。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)
TCFDは気候変動に対する企業の取組の具体的な開示を推奨する国際組織です。パリ協定以降の温室効果ガス削減の流れを受けて、TCFDが発表した「TCFD提言」は企業の気候変動対策に関する情報開示の基準になりつつあります。証券取引所を運営するJPX(日本取引所グループ)をはじめとする国内の様々な企業・機関もこれに同意しています。TCFD提言が求める開示内容の中にはGHGに関する項目もあり、Scope1,Scope2の全てとScope3の一部の開示が求められています。
TCFD提言を受けた情報開示義務化の流れ
2021年6月、東京証券取引所はプライム市場上場企業に向けたコーポレートガバナンス・コードの改定を行い、その中に
「プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである(補充原則3-1③)」
との文言が追加され、プライム上場企業におけるTCFDに基づく情報の開示が実質的に義務化されました。
また、ESGなど非財務情報の開示の国際基準を策定する「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」は2023年6月にScope3の開示義務化を決定しました。これを受けて日本でも2025年3月末までに同基準を受けた日本版の基準が策定され、以降有価証券報告書へのScope3の記載が義務化される見通しです。
ITベンダによるGHG排出量管理システムのサービス展開
上記によるGHG排出量開示の流れを受け、関連するITサービスの開発・展開が広がってきています。ここでは各社の代表的なサービスを見ていきます。
NTTデータ「C-Turtle」
NTTデータは国内初の「総排出量配分方式」に対応したGHG排出量可視化プラットフォームを展開しています。
これまでScope3の算定に当たっては「活動量(PCの購入台数など)」に、環境省などが提示する「産業別排出原単位」を乗ずる計算が広く行われていましたが、「活動量自体を減らさないとGHG排出量を削減できない」「グリーン購買などの努力が算出結果に反映できない」「産業別排出原単位では企業実態を反映できない」などの課題も存在していました。「総排出量配分方式」では、企業全体の排出量を取引先企業との取引額に応じて配分・連携することによって、企業別の排出量原単位の算出を実現しています。実取引に基づいた排出量可視化により、サプライチェーン全体での削減努力・効果が反映され、企業努力を対外資料としてより明確に提示することを可能にしました。
(参考:NTTデータ「C-Turtle」)
NEC「GreenGlobeX」
NECも工場やオフィスなどの複数拠点からの膨大な環境データの収集・集計を一元的かつ効率的に行えるツールをリリースしています。収集対象はGHG排出量のみならず、水消費量、廃棄物量、化学物質量、環境会計など多岐に渡り、自社の環境データの管理を容易にすることができます。
また、目標との進捗差異をグラフ化し「見える化」する機能や事業所毎に入力単位や利用電力会社を変更する機能も充実しており、ESG施策の管理においてビジネス向けの効率化が進んだ仕様となっています。今後の伸びしろの大きな製品となっています。
(参考:NEC「GreenGlobeXシリーズ」)
日立「EcoAssist-Enterprise」「EcoAssist-Pro/LCA」
日立は情報収集のみならず、日立コンサルティングとの連携で中長期戦略の立案まで実現できる環境データ収集・算定サービスを展開しています。
同サービスは、廃棄物総排出量などの環境データだけでなく、エコマーク製品仕様比率、製品環境負荷指標など自社の環境に対する取組を幅広く定量化する多岐にわたる指標を収集でき、環境経営に反映することができます。また、GHG排出量については、日立コンサルティングの「GHG算定支援サービス」とシームレスに連携し、データ集計から情報開示、次に向けての施策立案まで一貫したサポートを実現しています。
関連サービスとして、製品単位のGHG排出量算出を実現できるサービスも提供しており、「集計」「算出」「公表」「施策立案」の全範囲を幅広くカバーしていることが特徴と言えます。
(参考:日立「EcoAssist-Enterprise」「EcoAssist-Pro/LCA」)
booost technologies「booost GX」
サステナビリティ経営を支援するツール開発を専門とするboost technologiesが提供する「booost GX」は国内トップシェアを誇るGHG排出量管理システムです。
請求書からデータを読み取るAI-OCR機能やエクセルデータの自動仕分け機能といった特徴的な機能を有しており、データ集計からGHG算定までの効率化を実現しています。また、製品・サービスごとのカーボンフットプリントの算定や国際イニシアティブの各種レポート作成も可能となっており、公表までカバーされたサービスと言えます。
オプションとして、サプライチェーン全体での「見える化」実現のために、バイヤーがサプライヤーにアカウントを付与し、システム内でデータ集計が行えるサービスや、サプライチェーン全体でのCO2フリー電力の供給を支援するサービスも行っており、Scope2やScope3の削減まで実現することができます。
(参考:booost technologies「booost GX」「booost Supplier」「booost Energy」)
GHG排出量管理システムに関連する業務内容
上記のシステムを開発、導入、利用促進するため、下記のような業務があります。
事業開発
上記システムにおける事業開発として、新規顧客の開拓、リレーションシップの深化、売上高の最大化をミッションとして、業務にあたります。
例えば、下記のような業務を担当します。
・戦略的なクライアント・リレーションシップ構築、深化
・顧客のGX化に不可欠なデジタルソリューションの立案ならびに提案
・グローバルな環境規制動向のリサーチ
・既存事業の現状整理や注力分野の選定・提案
特にプラットフォーム化、デファクトスタンダード化を推進したい企業では、重要な業務となっています。
コンサルタント
コンサルタントは顧客企業に対し、自社製品の導入支援からGHG削減の実現に向けたコンサルティングまで幅広い提案を行い、企業の脱炭素経営をサポートする役割を担います。GHG排出を含めたサステナビリティ領域は日々新しい考え方が登場するため、「専門の担当者がおらず、どこから手を付けたらいいのかわからない」という企業も少なく有りません。コンサルタントは深い専門知識をもとに顧客の目指すグリーン経営像実現のために伴走する役割を果たしていきます。IT・システムの知識、経験があるとより、効果的なコンサルティングができますが、実際に携われている方にはIT未経験の方も多くいらっしゃいます。
SE/PM
SEはプロダクトの開発・設計・実装・テスト・改善を担うポジションです。プロダクト開発の方向性を理解した上で、各所の要望を着実にプロダクトに反映していくことが業務の中心となります。また、PMはプロダクトの開発にあたり、要件定義や優先度の設定、ロードマップの策定、費用管理、日程管理などSEチームを率いてプロジェクト成功のためにマネジメントをする業務です。システム開発経験、GHG排出量の測定に関わる専門知識と内部ステークホルダーとのコミュニケーション力が求められる職種になります。詳細は以下のページで紹介しております。
おわりに
TCFD義務化の流れなどもあり、GHG排出量管理システムはその重要性を急激に高めている時期にあるといえます。企業にとっても、自社のGHG排出量排出量を正確に把握し、その削減過程を明確化することでESG経営を目指す会社としての姿勢を対外的に示すことができるメリットが有り、今後導入企業は更に増えていくことでしょう。
また、急速に発展する業界だからこそ、各社積極的に求人を出している状況も見受けられます。環境やサステナビリティに少しでも興味が有りましたら、ぜひジョインを検討されてはいかがでしょうか。
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コンサルタント紹介
エグゼクティブコンサルタント 並木 雄助
[ 経歴 ]
大学卒業後、大手計測器メーカーに入社。自動車試験装置の設計開発に従事した後、自動車部品(tier1)メーカーに転職。防振製品の研究開発や自動車メーカーへの出向を経験した後、現職
[ 担当業界 ]
メーカー、製造業、コンサルティングファーム
エグゼクティブコンサルタント 網中 響太郎
[ 経歴 ]
明治大学政治経済学部卒業後、新卒でコトラに入社。入社時からコンサルタント業務に従事。入社2年目で大手監査法人パートナー等と共にウェビナーを主催し、ファシリーテーションも務める。現在はESG、財務会計アドバイザリー、金融ミドルバック全般、コンサルティングファーム全般を担当。
[ 担当業界 ]
ESG領域、コンサルティングファーム、財務会計アドバイザリー、金融ミドルバック
エグゼクティブコンサルタント 渡邉 裕介
[ 経歴 ]
大学卒業後、損害保険会社のコーポレート部門、営業部門、グループ会社出向を経験。コトラ転職後はリスクマネジメント、ESG領域を中心に担当。
[ 担当業界 ]
リスクマネジメント、コンプライアンス、ESG/サステナビリティ、金融ミドルバック
コンサルタント 村松 航也
[ 経歴 ]
広島大学教育学部卒。現在はESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関を担当。
[ 担当業界 ]
ESG領域、パブリックセクター、コンサルティングファーム、金融機関
コンサルタント 伊藤 駿成
[ 経歴 ]
東京工業大学にて修士課程修了後、大手財閥系メーカーに入社。プロセスエンジニアとしてプラント設計に従事。その後米系金融機関にて個人・法人営業を経て、現職。
[ 担当業界 ]
メーカー、製造業、コンサル、金融機関等
パートナー 宮崎 達哉
[ 経歴 ]
信州大学工学部卒、ゼネコンでの施工管理者を経験した後、三重県庁にて産業政策の企画・運営業務に従事。県庁在籍中に、経済産業省資源エネルギー庁及びNEDOにてエネルギー政策に係る新規事業立案や規制・制度の合理化に従事。デロイトトーマツグループでの地方創生及び教育分野のコンサルティング業務を経て現職。
[ 担当業界 ]
ESG/サステナビリティ領域、シンクタンク、コンサルティングファーム、監査法人、パブリックセクター、教育、経営層、管理系人材、技術者