ファンドマネージャー(FM)は、機関投資家として数多くの企業に目を通し、投資判断を行う“資本市場の目利き役”です。その一方で、銀行・証券会社のコーポレートファイナンス部門(カバレッジバンカー)では、企業の資本政策や財務戦略の立案を支援する“経営の伴走者”としての役割が求められます。
近年、ファンドマネージャーやアナリストなどバイサイドの経験を持つ人材が、セルサイドのコーポレートファイナンス領域へとキャリアチェンジするケースが増えています。企業の価値創造の実行支援に踏み込みたい、より多くの経営層と対話したい──そんな志向を持つ方にとって、カバレッジ業務はまさに次の挑戦の舞台となります。
本記事では、ファンドマネージャーからコーポレートファイナンス(カバレッジ)に転職するためのステップ、求められるスキル、志望動機・職務経歴書の具体例をご紹介します。
コーポレートファイナンス(カバレッジ)の主な業務内容
- 上場・未上場企業への資本戦略提案(株式・債券・融資・M&A等)
- 財務分析・企業価値評価・資金調達スキームの立案
- 経営層とのリレーション構築、継続的なカバレッジ活動
- プロダクト部門(ECM、DCM、M&A)との連携による提案実行
ファンドマネージャー出身者が活かせるスキル
- 企業価値評価の知見:財務三表、DCF、マルチプル分析などの定量分析力
- 経営視点の読み解き力:IR資料や経営者説明から戦略意図を読み取る力
- 業界分析・競合比較のノウハウ:セクターアナリシスを通じた市場理解
- ロジカルな資料作成・発信力:投資判断の説明経験(対内報告・対外発信)
転職のステップ
ステップ1:セルサイド業務の構造と立ち位置を理解する
ファンドマネージャーは「投資判断する側」ですが、カバレッジは「企業の資本政策を支援する側」です。両者は情報源の視点もアウトプットも異なるため、対経営・対社内(プロダクト連携)という構造理解が不可欠です。
ステップ2:自身の経験を“提案型支援”に翻訳する
- 「投資先企業との対話経験」→「経営層との対話スキル・業界理解力」
- 「企業評価・レポート作成」→「資本政策提案の基礎分析力」
- 「市場目線の知見」→「企業の資本市場戦略支援」
ステップ3:財務ストラクチャリングと提案力を補完する
- バンキングプロダクト(ECM、DCM、LBO、ストラクチャードファイナンス)の基礎知識
- ピッチブックの構成・社内連携のプロセス理解
- プレゼンテーションスキル、コンサルティングスキル(ロジカル展開力)
ステップ4:志望動機・職務経歴書で“攻めの金融人材”を打ち出す
「企業の価値を見抜く立場から、価値をともに創る立場へ」という転換を軸に、能動的なキャリア選択であることを示しましょう。
志望動機(サンプル)
私はこれまで国内資産運用会社にてファンドマネージャーとして、日本株の運用および企業調査・投資判断に携わってまいりました。企業価値を構成する財務・非財務情報をもとに経営の意図や成長余地を評価する中で、「資本市場で企業を支える」視点から、「経営層とともに資本戦略をつくる」立場へと役割を広げたいと考えるようになりました。
御社のコーポレートファイナンス部門では、業界知見・分析力・経営対話力を活かしつつ、より実行力を伴った提案活動に関与できると感じております。今後は、資本市場と企業をつなぐカバレッジバンカーとして、経営の最前線で価値創造に貢献していきたいと考えております。
職務経歴書(サンプル)
氏名:岡田 健太(仮名)
現職:株式会社●●アセットマネジメント(2017年4月~現在)
役職:ファンドマネージャー(日本株グロースファンド)
主な業務内容
- 上場企業の定量・定性分析(約300社のカバレッジ)
- ポートフォリオ構築・リバランス(運用残高:300億円)
- 経営陣とのミーティング(年間100件以上)、企業訪問
- 投資家向け運用報告資料の作成、社内運用会議での提案
- マクロ・セクター別の市場動向レポート作成
実績
- 保有ファンドの3年間年率リターン:+11.2%(同業比較上位)
- セクター別アロケーション変更によりリスク調整後リターンを改善
- IR非開示企業に対し経営戦略ヒアリングを実施、対話記録を共有
保有スキル・知識
- 財務3表モデリング、DCF/マルチプル評価、EVA分析
- Excel/PowerPoint/Bloomberg/FactSet
- CMA(日本証券アナリスト協会検定会員)、TOEIC 875点
まとめ:見る側から、動かす側へ。価値創造の主導者へキャリアを転換
ファンドマネージャーとして培ってきた企業評価の知見や業界目線は、企業と対峙し資本戦略を提案するカバレッジバンカーにとって極めて強力な武器となります。「良い企業を選ぶ」立場から、「良い企業を育てる」立場へ──資本市場と経営をつなぐ橋渡しとして、より能動的なキャリアを目指すあなたにとって、いまがまさにその一歩を踏み出す時です。