近年、シンクタンクやリサーチファーム、戦略コンサルティング会社において、公共政策・経済・産業構造に精通したリサーチャーのニーズが高まっています。その中で、官公庁での調査業務や政策立案に携わってきた職員が、リサーチャーとして民間企業へキャリアチェンジするケースが増加しています。
「官のリサーチ」から「民のリサーチ」へ。その背景には、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)や地方創生・再エネ・ヘルスケア・スタートアップ支援など、民間企業が担う社会課題解決型事業が増え、政策・制度への理解が求められていることが挙げられます。
本記事では、官公庁からリサーチャーへの転職を目指す方に向けて、キャリアチェンジのステップや必要なスキル、職務経歴書・志望動機の作成例までを網羅的に解説します。
リサーチャーとは?
リサーチャーは、企業や政府・自治体・団体の意思決定に資するために、社会・経済・産業などの情報を収集・分析し、客観的なレポートや提言を行う職種です。シンクタンク、民間調査会社、コンサルティング会社の調査部門などに属し、政策提言、産業トレンド分析、マーケットリサーチ、アンケート調査、定量・定性分析などを行います。
官公庁出身者が活かせる強み
- 政策立案・制度分析経験:制度の背景や意図を深く理解し、分析に説得力を持たせられる
- 統計・資料収集スキル:公的データの読解、一次情報の収集、定量分析への習熟
- レポート・答弁資料作成スキル:論理構成力、文書作成力が高い
- 関係者ヒアリング・調整経験:調査設計、ステークホルダー対応が得意
- 社会課題への感度と客観性:中立的な視点と実行可能性への配慮が強み
転職に向けた5つのステップ
1. 官公庁の経験を“リサーチ業務”に翻訳する
政策企画、制度設計、地域振興、調査報告書の作成などの経験は、民間リサーチでも直接的に活きます。以下のように言語変換して整理しましょう。
- 「施策立案」→「業界動向調査/政策影響分析」
- 「統計分析」→「データベース分析/定量リサーチ」
- 「答弁資料作成」→「レポーティングスキル」
2. 分析スキル・ツールを補強する
- Excel/PowerPoint:可視化・資料作成スキル
- SPSS/R/Python:アンケート分析やモデリング
- BIツール:Tableau、Power BIなど
3. 民間リサーチのテーマを把握する
- 業界・市場トレンド(製造業、ヘルスケア、ITなど)
- 政策評価、地方創生、ESG/SDGs領域
- 新規事業調査、スタートアップの実態調査
興味ある領域を見極めて、専門性を高めていくことが重要です。
4. 実績・レポートの整理(ポートフォリオ化)
自ら作成した報告書、統計資料、提言書などは、機密性に留意しつつ概要ベースで職務経歴書に落とし込むと効果的です。
5. 応募書類の構成に“リサーチ視点”を入れる
「どのような目的で、どのような調査をし、どのような提言・結果につなげたか」を意識してまとめましょう。
志望動機(サンプル)
私はこれまで官公庁にて、政策立案のための調査・分析業務を多数経験してまいりました。特に地域産業振興の文脈では、統計データの活用や企業ヒアリングを通じて、課題を可視化し、具体的な提言に結びつける業務に従事しました。今後は、より多様な業界・社会課題に対し、客観的な立場からソリューションを提示できるリサーチャーとして貢献したいと考えております。御社の社会性の高い調査テーマに共感し、制度理解と分析スキルを活かした提言活動を行っていきたいと考えております。
職務経歴書(サンプル)
氏名:山本 真理子(仮名)
現職:経済産業省 地域経済産業グループ(2017年4月〜現在)
役職:主査(調査分析担当)
主な業務内容
- 地域中小企業の動向調査・分析(企業ヒアリング+統計分析)
- 地域経済レポート(月次/四半期報告)作成
- 産業支援施策のKPIモニタリング・評価レポート作成
- 自治体・業界団体との意見交換会議のファシリテート
活かせるスキル・知見
- 官民双方の課題を踏まえた分析設計力
- 公的統計・経済データの分析力(e-Stat、RESASなど)
- レポート構成・提案資料作成スキル(Word・PowerPoint)
- ファクトベースでの課題特定・仮説構築スキル
保有資格
- 統計検定2級
- G検定(AIの基礎理解)
- TOEIC 825点
まとめ:社会課題の“可視化力”を武器にキャリア転換を
官公庁で培った調査力・分析力・文書作成力は、リサーチャーという職種において非常に親和性があります。必要なのは、“中立性”に加え、民間での活用視点です。「公共のための分析」から「事業や社会の意思決定に資する分析」へと視野を広げていくことで、キャリアの可能性が大きく拓けるはずです。