ストラクチャードファイナンス(Structured Finance)とは、不動産、インフラ、企業買収、再生エネルギーなど、特定の資産やキャッシュフローを裏付けとした複雑な金融スキームによって資金を調達する手法を指します。証券化やプロジェクトファイナンスを含むこの分野は、高度なファイナンス知識と法制度への理解、リスク分析能力が求められる専門性の高い領域です。
一方で、官公庁で制度設計、財務管理、公共投資、再エネ政策などに携わってきた方々は、その知見と俯瞰的視点を活かし、ストラクチャードファイナンス領域への転職を成功させているケースが増えています。本記事では、官公庁出身者がこの専門領域へ転身するための具体的ステップと準備すべきポイント、志望動機や職務経歴書のサンプルを紹介します。
なぜ官公庁出身者がストラクチャードファイナンスに向いているのか?
- 制度設計・法令運用の経験:リーガル・ストラクチャーを理解し、法的枠組みを読み解く力
- 政策立案・資金計画の経験:長期的視野でのファイナンス構築力
- 官民連携のマネジメント経験:PPP/PFIや再エネ補助制度など
- マクロ経済・産業政策の知見:構造的な投資判断を支える分析能力
主な業務内容
- 証券化スキーム(ABS、CMBS、RMBS等)の構築・組成
- プロジェクトファイナンス(PFI、インフラ投資、再エネ)の資金調達支援
- ストラクチャーの設計、リスク評価、ドキュメンテーション
- 投資家向けディスクロージャー資料の作成、IR支援
- SPCの設計・管理、法律事務所・会計事務所との連携
転職に向けた5つのステップ
1. ファイナンス知識のキャッチアップ
まずは基礎的なファイナンス知識(NPV/IRR、キャッシュフロー分析、資本コスト等)を体系的に学びます。書籍、オンライン講座、資格取得を通じて以下を理解しておきましょう:
- ストラクチャードファイナンスの基本構造
- SPC(特別目的会社)設計、トランシェ構造
- 証券化商品とリスク分配の仕組み
2. 官庁業務をストラクチャード業務に翻訳
政策金融、公的不動産整備、再生可能エネルギー支援、財務省の出納・債券発行業務などは、ファイナンス構造への理解を土台にできます。
- 「再エネ補助金制度運用」→「再エネPF組成」
- 「地方債発行支援」→「債券スキーム・投資家対応」
- 「PPP制度の制度改正」→「官民連携事業ストラクチャー」
3. リーガル・リスク面の知識補完
証券化は契約・法的拘束力を前提とした取引です。以下を最低限理解しておくことが重要です:
- 資産譲渡の法的枠組み、トゥルーセール(True Sale)
- 倒産隔離、破産リモート性
- スキーム図と関係者(アレンジャー、サービサー、トラスティなど)
4. 関連資格やリスキリング
- 証券アナリスト(CMA)
- 日商簿記2級以上(ファイナンス基礎)
- 宅地建物取引士(不動産ファイナンス系)
- 金融・法務・財務モデリングの実務講座受講
5. ポジション選定と応募書類の工夫
初期はアシスタント・アナリストポジションからのスタートも現実的。経験を活かし、ビジネス感覚をアピールできる応募書類を作成しましょう。
志望動機(サンプル)
私はこれまで国土交通省にて、PPP/PFI推進施策や不動産流通制度の整備に携わってきました。インフラ整備に対して官民連携のスキーム構築や法制度の設計を行う中で、「金融構造」に対する興味と関心が深まりました。今後は、政策支援から一歩踏み出し、民間金融の実務を通じて社会基盤の形成に直接貢献したいと考え、貴社のストラクチャードファイナンス部門を志望いたします。行政での制度設計・民間連携の経験を、投資家・アレンジャー・弁護士との橋渡し役として活かしてまいります。
職務経歴書(サンプル)
氏名:鈴木 太一(仮名)
所属官庁:国土交通省 都市局 民間資金活用推進室(2016年4月〜現在)
役職:課長補佐級
主な業務内容
- 全国自治体におけるPFI/PPP推進のガイドライン策定・自治体支援
- 公共施設等運営権制度(コンセッション)の制度整備
- 不動産投資市場整備(J-REIT等)に関する業界団体・企業との協議
- 外部弁護士・金融機関との法令・構造調整
活かせるスキル・知識
- 金融・法制度を踏まえたスキーム提案力
- 民間投資家・自治体・法務との三者調整力
- 契約実務・リスク分析(公共側視点)
- 財務モデリング(基礎)・プレゼン資料作成スキル
保有資格
- 証券アナリスト1次試験合格
- 日商簿記2級
- 宅地建物取引士
- TOEIC 820点
まとめ:政策を構造に、構造を金融に翻訳する力
官公庁で培った制度的視点や官民の橋渡し経験は、ストラクチャードファイナンス領域においても非常に価値があります。今後、再エネ、不動産、インフラ、スタートアップなどを支える資金の在り方として、構造化金融の需要はさらに拡大していきます。行政出身というバックグラウンドを“金融構造の翻訳者”として位置づけ、社会インフラを金融から支えるキャリアへ、第一歩を踏み出してみてください。