変化の激しい時代において、企業の競争力の源泉は「人」にあります。その中で、企業の成長を支える人事の役割はますます重要になっており、特にベンチャー企業では「戦略人事」への期待が高まっています。
大手メーカーで人事を経験してきた方が、スピード感と裁量の大きなベンチャー企業に飛び込むケースも増加中です。本記事では、メーカー人事として培ったスキルを武器に、ベンチャー人事へと転職するためのステップや必要なマインドセット、志望動機や職務経歴書の記載例までを解説します。
1. メーカー人事とベンチャー人事の違いとは?
まずは、両者の違いを理解することが転職成功の第一歩です。
項目 | メーカー人事 | ベンチャー人事 |
---|---|---|
役割 | 分業化されており、制度・採用・労務など機能別に担当 | 人事機能を広くカバー(採用・制度・育成・労務・組織開発) |
意思決定 | 慎重かつ段階的な意思決定 | スピード重視の意思決定、柔軟な対応力が求められる |
制度の成熟度 | 成熟した制度が整っている | 制度構築が未整備 or これからつくる段階 |
人材像 | 基礎力・安定性・組織適応力を重視 | 柔軟性・成長意欲・即戦力を重視 |
こうした違いを理解し、「大手の人事として何をやってきたか」「それをどう活かせるか」が問われます。
2. メーカー人事出身者がベンチャーで評価されるポイント
大手メーカー人事での経験は、ベンチャー企業でも高く評価されます。特に次のような点が強みとなります:
- 制度運用経験: 等級・評価・報酬制度などの体系的な仕組み理解
- 労務管理の実務知識: 就業規則・社保・労基法対応などの実務経験
- 採用業務の基本スキル: 新卒・中途の求人票作成、面接、選考フロー整備
- 論理性・ドキュメント作成力: 報告資料、企画提案書などのビジネス文書作成
ベンチャーに足りない「人事の型」や「制度構築の視点」を持ち込める人材は、組織の成長を支える貴重な存在です。
3. 転職までのステップ
Step 1:ベンチャー人事の実態を知る
企業によっては人事が1名体制だったり、採用と広報を兼務するケースもあります。求人票だけではなく、社員インタビュー記事やSNS、イベントなどから生の声を集めましょう。
Step 2:自分の経験を「ベンチャー文脈」で再定義する
制度を“守る”立場から、“作る”立場へと意識転換が必要です。たとえば、「運用していた制度をベースに、〇〇のように改善できる」といった実行力や提案力を見せましょう。
Step 3:志望動機・キャリアビジョンを明確にする
「なぜベンチャーなのか」「なぜ今チャレンジしたいのか」「どんな組織を作りたいか」を具体的に言語化することが大切です。
Step 4:書類と面接対策
実績は「課題 → 打ち手 → 結果」の構成で整理し、スピード感や当事者意識が伝わるようなエピソードを中心に伝えましょう。
4. 志望動機(例文)
私はこれまで大手メーカーの人事部門にて、採用・制度運用・評価管理など幅広く経験してまいりました。とくに、新卒採用の改革や評価制度運用の見直しでは、現場と密に連携しながらPDCAを回してきたことで、制度と現場をつなぐ調整力を磨いてきました。 一方で、よりスピード感のある環境で、人事を“ゼロからつくる”経験をしたいという思いが強まり、ベンチャー企業への転職を決意いたしました。 貴社が掲げる「人と組織の成長をエンジンにした事業拡大」というビジョンに共感しており、私の制度運用経験と現場理解を活かし、柔軟で自走する組織づくりを支えていきたいと考えております。
5. 職務経歴書(記載例)
【職務要約】 大手メーカーにて約6年間、採用・制度運用・評価・労務管理など人事業務全般に従事。とくに新卒採用改革や人事制度の運用・改善において、社内ステークホルダーと連携しながら施策を推進。組織課題の見える化から改善策の立案・実行までを経験。 【職務経歴】 ■期間:2018年4月 ~ 現在 ■会社名:株式会社〇〇電機(東証プライム上場・従業員3,000名) ■部署:人事部 人材開発グループ → 人事企画グループ ■職位:主任 【主な業務実績】 ● 新卒採用改革プロジェクト(2021年~) - オンライン選考導入、SPI・面接フロー見直し、面接官トレーニング設計 - 内定辞退率を前年比20%改善、採用充足率100%達成 ● 評価制度の運用改善(2022年) - 評価基準の明確化、評価者研修、フィードバックガイド作成 - 人事への評価フィードバックに対する満足度が前年比15pt改善 ● 労務管理・規程改定 - リモート勤務制度導入に伴う就業規則改定、労基署対応 【スキル】 - 採用企画、制度運用、評価・等級制度、労務・規程対応 - PowerPoint(資料設計)、Excel(関数・集計)、Word(文書整備) - チームファシリテーション、関係者調整、現場伴走型支援 【資格】 - 社会保険労務士(試験合格・登録準備中) - キャリアコンサルタント(国家資格) - TOEIC 750 【自己PR】 現場理解と制度知識をバランスよく兼ね備え、現場との対話を通じた組織改善を得意としています。ベンチャーでは「前例がない」「制度がない」状況でも、目的から逆算して実行できる人事として、事業のスケールアップを支えていきたいと考えています。
6. 面接でよく聞かれる質問と対策
- なぜ大手メーカーからベンチャーに? →「裁量・スピード」「人事を創るフェーズに関わりたい」と伝えましょう。
- ベンチャーで対応できると思うか? → 不確実性を楽しめるか、実行力があるかを伝える。
- これまでの経験をどう活かせるか? → 「制度がある前提」を疑い、再設計できる視点を持っていることをアピール。
7. まとめ:制度を運用してきた人材が、“創る”側へと進むチャンス
メーカー人事として積み重ねた経験は、ベンチャーの人事組織づくりにおいて非常に価値の高い資産です。成熟した環境で得たノウハウを、成長段階にある組織で活かすことで、「自ら人事の仕組みを構築する」というダイナミズムを味わうことができます。
人事制度を守る側から、つくる側へ。あなたの第二のキャリアが、組織と人の成長を支える礎になることを願っています。