監査法人ランキング2023:報酬額から見る実力比較

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1. 監査法人とは?その役割と重要性

監査法人の基本概要

 監査法人とは、主に企業や組織の財務情報が適正に作成されているかどうかをチェックする専門機関です。特に、会社法や金融商品取引法に基づいて法定監査を行うことが義務付けられている大企業の監査を中心に活動しています。この活動を通じて、投資家や株主をはじめとする利害関係者に対し、企業の財務情報に対する信頼性を提供します。

 監査法人は公認会計士が中心となって構成されており、その業務内容は財務諸表の監査にとどまらず、内部統制監査や非財務情報に関する保証業務も行っています。特に近年では、ESG情報やサステナビリティ関連情報の監査が注目されており、その役割が多様化しています。

監査法人が果たす役割とその影響

 監査法人の果たす役割は、企業活動の透明性を高める点にあります。監査を通じて、財務情報が正確であることを確認することにより、投資家や市場が安心して企業に資金を提供できる環境を整えることが可能です。

 また、監査を受ける企業にとっては、業務プロセスの改善やリスク管理能力の向上といった副次的な利益も期待できます。監査法人による独立した意見は企業経営の信頼性を担保し、結果的に資本市場全体の健全性を支える重要な要素となっています。

監査報酬が企業経営や資本市場に与える重要性

 監査報酬とは、監査法人が監査業務を実施する際に受け取る金額を意味します。この報酬の水準は、監査内容の質や規模に大きく影響するとされています。2023年度における監査報酬総額は5890億2246万円で、前年に比べ528億6717万円の増加がみられました。この増加は、企業活動の複雑化や監査基準の厳格化が背景に挙げられます。

 監査報酬が適正かつ透明であることは、監査法人の独立性を確保するうえでも必須とされています。また、報酬水準が低すぎる場合には質の高い監査が難しくなる可能性があり、資本市場の信頼性が損なわれるリスクをはらんでいます。企業にとって、適切な監査報酬を支払うことは、経営戦略の一部として検討されるべき重要な要素といえます。

監査法人の独立性と報酬の関係性

 監査法人の独立性は、監査業務の公正性を確保するうえで極めて重要です。独立性が損なわれた場合、監査内容の信頼性が低下し、結果として企業や投資家への影響は甚大なものとなる可能性があります。

 一方で、報酬額は監査法人が十分な監査を行うためのリソースを確保するために必要不可欠です。しかし依頼主である企業に完全に依存する形の報酬体系が続く限り、独立性への懸念が拭えない場合もあります。そのため、報酬の内訳や算出根拠を透明化し、外部の監視機関や基準に従う取り組みが進められています。

 結果として、報酬の設定は、独立性を害さずに質の高い監査を提供できる点のバランスが求められる難しい課題となっています。この点において、監査法人と企業双方の理解と協力が不可欠と言えるでしょう。

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2. 2023年の監査報酬市場トレンド分析

監査報酬の増減傾向とその背景

 2023年度の監査報酬総額は5890億2246万円となり、前年と比較して528億6717万円増加しました。この増加は、新型コロナウイルス感染症の影響が緩和され、企業の事業活動が回復基調にあることや、監査業務の多様化や複雑化に対応するための追加リソースの投入が一因と考えられます。また、監査報酬の算出は「監査時間数 × 単価」に基づきますが、公認会計士や補助職員の人員増加や単価の上昇も、報酬の伸びに寄与しています。

 一方で、一部の業種や規模によっては監査報酬の減少傾向も見られます。たとえば、建設業では売上高100億円未満の企業における平均報酬が前年比5.9%減少しており、コスト管理や監査の効率化が背景に挙げられるでしょう。このような増減傾向を通じて、監査法人の市場動向や企業との関係性が多様化していることがわかります。

業種別や規模別に見る監査報酬の違い

 監査報酬は企業の業種や規模によって大きく異なります。たとえば、建設業における監査報酬は売上高によって著しく変動し、売上高100億円未満の企業で平均503.8万円、一方で500億円以上の企業では平均2379.5万円と5倍近い差異があります。これは、業務の複雑さや監査時間の長さが規模に応じて増加するためです。

 業種別で見ても、金融業や製造業など規制が厳しく、監査の専門性が求められる業種では、相対的に高額な監査報酬が設定される傾向にあります。一方で、中小企業や非営利法人などのセクターでは費用対効果が重視されるため、比較的低額な監査報酬となることが一般的です。このような違いは、監査法人が提供するサービスの内容や適用される基準に応じて個別に設定されます。

4大監査法人と他監査法人の報酬比較

 2023年度のデータを見ると、上位5社に含まれる4大監査法人が市場で圧倒的なシェアを占めています。たとえば、トーマツが897億6608万円、あずさ監査法人が839億9576万円の監査報酬を記録しており、これら4社だけで総額の約66%を占めています。一方で、その他の監査法人(139社)の報酬合計は383億5845万円に留まっており、4大監査法人とそれ以外の法人との顕著な格差が見られます。

 4大監査法人は、多国籍企業や大規模な上場企業を主な監査対象としており、高い技術力やグローバルな人的ネットワークを有しています。その分、監査報酬も高額になる傾向です。一方で、中小規模の監査法人は中小企業や地域密着型のクライアントを対象とし、コストパフォーマンスを強みとしています。これらの違いは、企業が監査法人を選ぶ際の重要な判断基準にも影響を与えています。

法定監査と任意監査の報酬の違い

 法定監査と任意監査では、報酬の期待値や構成にも違いが現れます。法定監査は企業法務や株主に対する財務報告の透明性確保を目的とし、監査法人に一定以上の専門性と責任が求められるため、報酬も高く設定される傾向にあります。

 一方で、任意監査は企業が自主的に依頼する監査であり、その目的や範囲が柔軟に設定可能です。たとえば特定のプロジェクトの監査や内部統制の見直しに焦点を当てる場合などに実施され、法定監査に比べて報酬も比較的低めです。ただし、任意監査には企業独自の課題を解決するための付加価値が期待されるため、場合によっては法定監査よりも高額になることもあります。

 このように、法定監査と任意監査の違いは、企業がどのようなニーズで監査を依頼するかによっても変動し、適切な監査法人の選択が鍵となります。

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3. 主要監査法人ランキングの評価基準

ランキングの基本的な評価指標

 監査法人ランキングを評価する際、基本的な指標として注目されるのは「監査報酬額」です。監査報酬は、監査法人が提供するサービスの規模や質を評価する上で重要な基準とされています。具体的には、監査時間数や単価によって報酬額が計算されるため、顧客層や業務の複雑さが反映されることも特徴です。加えて、監査法人ごとの規模やクライアントの数、業種の多様性もランキングに影響します。特に大手4大監査法人はトーマツやあずさ監査法人などが牽引しており、その報酬額は業界全体を大きく左右しています。

報酬額以外に注目すべき要素

 監査法人ランキングにおいて、報酬額は確かに重要ですが、それ以外にも評価すべき要素が存在します。例えば、監査法人が提供する監査の正確性や信頼性、また監査法人の独立性を如何に維持しているかも企業にとっては重要です。また、業種別や地域別に特化したサービスの専門性や、デジタル化による効率性なども見過ごせないポイントです。近年では、監査法人による持続可能な監査プロセスの構築や、時代のトレンドを反映した柔軟な対応力も注目されています。

ランキングにおける2023年の注目ポイント

 2023年の監査法人ランキングでは、総報酬額の増加が大きな注目点となっています。特に、前年から約528億円以上の増加が見られ、業界全体が成長していることを示しています。上位を占める4大監査法人では、トーマツが897億円、あずさ監査法人が839億円と高い報酬額を誇っていますが、EY新日本監査法人やPwCあらた監査法人との順位争いにも目が離せません。また地方の中小監査法人や特定業種に特化した監査法人の台頭も見逃せないポイントです。これらの動きは、今後の競争激化やサービス多様化を予想させます。

監査法人の地域別ランキング傾向

 監査法人の地域別ランキングでは、都市部と地方の格差が顕著です。都市部では、大型企業を多くクライアントに持つ4大監査法人が圧倒的なシェアを占めており、高額の監査報酬を受け取る傾向にあります。一方で、地方では中小企業や非営利団体に対する監査が中心となるため、報酬額が全体的に低めとなる傾向が見られます。とはいえ、地方の中小監査法人が地域特化型のサービスを提供し、一定の評価を受けるケースも増えてきています。特に、近年では地方での法定監査需要が高まり、地域密着型の監査法人の存在感が徐々に増してきていることが注目されています。

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4. 監査法人選びのポイントと注意事項

企業に適した監査法人選択とは

 企業が監査法人を選ぶ際には、自社の業種や規模、将来の成長計画を踏まえることが重要です。監査法人には得意とする専門分野や業界知識に強みを持つケースが多く、それに適した法人を選ぶことで、より効果的なサポートを受けることができます。また、近年のデジタル化やグローバル化が進む中で、テクノロジーや国際基準(GAAP)に精通した監査法人を選定することで、より効率的かつ実務に即した指導を受けられるのもポイントと言えます。報酬額だけでなく、サービスの質や対応能力も選考基準とすることが大切です。

費用対効果を考慮した監査報酬の見方

 監査報酬は単に金額だけで判断するべきではなく、その内容に見合った価値を提供しているかが重要です。監査法人の報酬は「監査時間数 × 単価」で計算されますが、単価の背後には監査を担当するスタッフのスキルや専門性が影響しています。たとえば、高い報酬であっても専門性の高い監査を受けることで、企業の財務報告の信頼性が向上し、結果として投資家やステークホルダーからの評価が高まることがあります。一方、過剰なコストを削減しようとすることは、監査の質や法人との信頼関係を損なうリスクも含まれるため、費用対効果を見据えた判断が求められます。

監査法人変更時のリスクと対策

 監査法人の変更には、リスクと注意点があります。変更に伴い、法人に企業の業務や財務状況を新たに把握してもらう時間が発生するため、初期コスト増加や監査報酬の見直しが必要となる場合があります。また、変更時には社内外に一時的な不安感が生まれることも予想されます。対策として、変更プロセスを明確に計画し、新たな監査法人に迅速かつ詳細に情報を共有することが求められます。また、変更理由について株主などに説明を行い、透明性を確保することも重要です。スムーズな移行が行える体制を整えることで、リスクの最小化が可能となります。

中小企業における監査法人選びのコツ

 中小企業においては、監査報酬が会社の経費に与える影響が大きいため、報酬額とサービス内容のバランスを特に重要視する必要があります。大規模な4大監査法人にこだわらず、企業の規模や業種に適した中小規模の監査法人を選ぶことで、柔軟かつコスト効率の良いサービスを受けることが可能です。また、中小企業においては社内手続きの標準化が十分でない場合も多いので、監査法人のサポート体制や、具体的な助言を受けられるかどうかも判断基準となります。その際、自社の経営方針や将来計画についての理解度も重視すると良いでしょう。

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5. 未来の監査法人と報酬のあり方

監査法人業界の課題と展望

 監査法人業界は近年、大手監査法人の寡占化や中小規模の監査法人の業務範囲拡大といった変化を迎えています。また、監査報酬市場は競争が激化しており、「監査報酬の透明性」と「業務の質」の両立が求められています。特に、監査法人の数が205法人に拡大しつつも、大半の報酬が4大監査法人に集中する偏在が課題として挙げられます。これに対し、中小監査法人が競争力を高めるためには、差別化を図る戦略が必要です。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)分野の台頭により、今後は非財務情報に関する監査の需要が増加し、その報酬体系にも新しい見直しが求められるでしょう。

デジタル化が監査報酬に及ぼす影響

 監査のデジタル化は、監査業務の効率化とコスト削減に寄与すると期待されています。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった新テクノロジーの導入により、従来の手作業で時間がかかっていた手順が自動化され、監査報酬の構造にも変化が生じています。たとえば、会計データの自動分析や異常検知が迅速化される一方で、技術の導入には初期投資が必要であるため、短期的には報酬費用が増加することも考えられます。また、デジタル化は監査の「量」ではなく「質」に焦点を当てる動きを加速させ、企業との報酬交渉において新しい課題と交渉ポイントが生まれています。

持続可能な監査報酬モデルの構築

 今後、監査法人は持続可能な報酬モデルの構築を目指す必要があります。監査報酬が単純に「監査時間数×単価」という計算方式のみに依存する現状では、監査業務の効率化に伴い報酬が伸び悩む可能性があります。この問題を解決するためには、付加価値の高いサービス(例:ESG監査、ガバナンス強化支援)の提供を通じた収益基盤の多様化が必要です。また、持続可能性を強調した料金体系や、企業規模や業種に応じた柔軟な価格設定を行うことが求められます。これにより、企業側にとっても納得感のある報酬体系が実現します。

監査法人と企業の共存関係を築く方法

 監査報酬をめぐる課題解決には、監査法人と企業の信頼関係を基盤とした「共存関係」の構築が重要です。まず、企業は単にコスト削減を追求するのではなく、適正な監査報酬を支払うことで質の高い監査を確保する姿勢を示す必要があります。一方、監査法人も単純な監査業務だけでなく、企業価値を高める提案や支援を行うことで付加価値を提供することが重要です。このような相互理解と協調により、企業と監査法人の双方がメリットを享受できる持続可能な関係性が築かれるでしょう。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)