投融資先のCO2排出量、金融機関が取り組むCO2排出量削減の最新動向

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1. 投融資先のCO2排出量とは?

1-1. 投融資先CO2排出量の定義と重要性

 投融資先のCO2排出量とは、金融機関が提供する融資や投資を受けた企業活動から発生する温室効果ガス(GHG)排出量を指します。金融機関自体は直接的なCO2排出量が少ない業種ではありますが、その投融資先企業による経済活動を通じて間接的に多大な環境負荷をもたらします。この排出量は金融機関の総GHG排出量の中で最も大きな構成要素となり、気候変動に与える影響を評価する上で重要な指標です。金融機関がこれを管理・削減することは、ネットゼロ目標の達成に向けた持続可能な経済への移行に欠かせない役割を果たします。

1-2. スコープ3カテゴリ15における位置づけ

 投融資先のCO2排出量は、温室効果ガス排出量を評価する「スコープ3」のカテゴリ15に位置づけられます。このカテゴリ15では、投資先企業や融資先企業の活動によって発生する間接的な排出量を測定します。特に金融機関の場合、このカテゴリ15の排出量が全体の約7割以上を占めるケースもあり、最も気候変動に影響する領域とされています。このため、「スコープ3カテゴリ15」における適切な排出量算定方法や管理指針の導入が強く求められており、国際基準であるGHGプロトコルやPCAFスタンダードにも対応が進められています。

1-3. 金融機関が直面する課題と現状

 金融機関にとって、投融資先のCO2排出量を正確に算定し管理することは、大きな課題となっています。なぜなら、関与する企業の規模や業種、地域によって排出量のデータ収集や評価の難易度が異なるからです。また、各国での開示要件や規制が進む一方で、統一的な国際基準の普及が未だ途上にあることも課題です。さらに、一部の投資先企業が十分な気候関連情報を開示していないことが、排出量の把握を一層困難にしています。これに対応するため、PCAFスタンダードや新しいテクノロジーの導入を進める動きが見られますが、包括的な解決にはまだ時間がかかるとされています。

1-4. 国際的な規制と基準の概要

 現在、金融機関のGHG排出量に関連する国際的な規制と基準が次々と整備されています。例えば、IFRSサステナビリティ開示基準では、GHGプロトコルに基づいた排出量の開示が推奨されています。また、PCAF(パリ気候協定準拠な炭素会計金融協力)スタンダードは、金融機関が透明性を向上しつつ、投融資先の排出量を測定・報告するための枠組みを提供しています。これらの基準は、気候関連リスクを明確化し、金融機関が脱炭素経済への転換に貢献することを目指して策定されています。同時に、日本を含む各国でも、気候関連情報の開示義務化や新規制の適用が進展しており、金融機関はその対応に力を注いでいます。

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2. 投融資先排出量算定のアプローチと現行基準

2-1. GHGプロトコルとその適用方法

 GHGプロトコルは、温室効果ガス(GHG)の排出量を算定するために策定された国際的な基準です。特に、金融機関のGHG排出量算定では、投融資先から間接的に生じる排出量を測定する際の重要な指針となっています。このプロトコルは、スコープ1、スコープ2、スコープ3と呼ばれる3つのカテゴリをカバーしており、とりわけスコープ3の分類において、金融機関が投資や融資を行う企業の排出量が注目されます。

 GHGプロトコルに基づく算定では、金融機関は投融資先企業の排出データや排出係数を用いて、間接排出量を定量化します。この取り組みは、排出量プロファイルの作成や、気候リスクに関する透明性を高め、持続可能な金融ポートフォリオの構築に寄与します。

2-2. PCAFスタンダードの役割と特徴

 PCAFスタンダード(Partnership for Carbon Accounting Financials)は、金融機関が投融資先のGHG排出量を正確に算定するための国際的な枠組みです。PCAFは、具体的な算定手法や基準を提供することで、各金融機関が統一的かつ透明性の高い方法で排出量を評価できるよう支援しています。

 このスタンダードの特徴は、資産クラスごとに詳細な算定ガイドラインを提供している点にあります。これにより、投資信託や融資、不動産など、異なる投資形態の影響を数値化しやすくなります。また、PCAFは金融機関による自主的な取り組みとして世界中で参加者が増加しており、ネットゼロポートフォリオを目指す動きの一環として欠かせない役割を果たしています。

2-3. 排出係数と測定ツールの進化

 投融資先のGHG排出量算定は、適切な排出係数と測定ツールの活用により進化しています。排出係数は、特定の活動や業種ごとに排出量を推定するための基準値であり、算定の精度を左右する重要な要素です。業界標準や個別のデータに基づいた排出係数が選定されることで、より正確な結果が得られます。

 さらに、近年は測定技術の革新が進み、高度なデジタルツールやプラットフォームが金融機関に提供されています。例えば、NTTデータが開発した「C-Turtle®︎」は、投融資ポートフォリオ全体のCO2排出量を可視化する支援ツールとして注目されています。このようなツールの進化は、GHGプロトコルおよびPCAFスタンダードに基づいた算定プロセスを効率化し、金融機関による持続可能性目標達成を後押しします。

2-4. グローバル基準と各国の動向

 投融資先排出量を算定する際には、国際的な基準を踏まえることが重要です。GHGプロトコルやPCAFスタンダードはすでに広く採用されており、これによりグローバルな枠組みでの算定方法が統一されています。一方で、各国は自国の規制や特性に基づき、独自の基準やルールを策定し始めています。

 例えば、EUでは持続可能な金融を推進するタクソノミー規制が導入されており、金融機関のGHG排出量に関する透明性の確保が求められています。また、日本では三井住友銀行が米国のパーセフォニなどと連携し、算定基準の実務的適用を進めています。こうした動向を踏まえ、グローバル基準と国内規制の調和が重要な課題となっています。

2-5. 算定手法の課題と改善策

 投融資先のGHG排出量算定は、依然として多くの課題を抱えています。その主な理由は、データ不足やデータ品質のばらつきにあります。特に、投融資先の企業が十分に排出データを開示していない場合、推定値に基づく算定が必要となり、これが精度の低下を招く要因となります。

 これに対する改善策として、金融機関は技術革新を活用してデータ収集プロセスを強化し、透明性を高める必要があります。さらに、国際的な協力や業界間でのデータ共有を進めることも有用です。また、PCAFスタンダードのような枠組みを活用し、統一的な算定基準を採用することで、精度と信頼性の高いデータ解析が可能となります。これにより、金融機関は気候変動に対応した戦略的意思決定をより効果的に行うことができるでしょう。

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3. 金融機関が取り組むCO2排出量削減の最新動向

3-1. ネットゼロポートフォリオの実現

 金融機関における「ネットゼロポートフォリオ」とは、投融資先の事業活動に起因するCO2排出量を含め、全体として排出量を実質ゼロにすることを指します。これは自社のGHG排出量プロファイルを把握し、気候関連目標に合致した投融資先の選定と支援を行うことが中心となります。特に、投資先のGHG排出量を正確に把握することで、クライアント企業と連携して脱炭素化を推進する取り組みが重要視されています。このような取り組みは、金融機関の持続可能性を高めるだけでなく、気候変動リスクへの対応力を強化するうえで必要不可欠です。

3-2. GFANZと国際的なイニシアチブ

 GFANZ(ネットゼロのための金融アライアンス)は、金融機関が脱炭素化を進めるための国際的枠組みとして設立されました。GFANZは、各金融機関が2050年までにネットゼロ目標を達成するためのロードマップを策定し、目標達成に向けた具体的なプランを公表することを求めています。このような国際的なイニシアチブは、各国の政府や規制当局と協力し、投融資先の排出量削減に向けてグローバルな軸を提供しています。特に、GFANZは金融機関の活動を気候変動の観点から統合的に評価するための指針を設け、透明性を高める役割も果たしています。

3-3. 投融資ポリシーの転換事例

 ネットゼロ達成に向けて、金融機関は従来の投融資ポリシーを見直す動きを強めています。たとえば、化石燃料関連企業への融資や投資を制限し、再生可能エネルギーや環境配慮型事業への資金供給を強化する事例が増えています。一部の銀行は、具体的な目標数値を設定してポリシーを公表し、その進捗状況を公開することで、透明な取り組みを行っています。このような投融資ポリシーの転換は、金融機関が持続可能な社会づくりに寄与する意志を示すものです。同時に、GHG排出量管理への責任感を社会に対して明確に示すものとなります。

3-4. イノベーションと技術支援の活用

 金融機関は投融資先のGHG排出量削減を支援するため、新しいテクノロジーやデジタルソリューションを活用しています。たとえば、NTTデータが提供する「C-Turtle®︎」のような排出量可視化ツールや、三井住友銀行が米パーセフォニと開発したソリューションなどがその一例です。これらのツールは、排出係数の算定や排出量管理の効率化を可能にし、投融資先との連携を強化します。また、AIやブロックチェーンを活用して、正確で信頼性の高い排出量データを提供する取り組みも広がっています。これにより、金融機関と投融資先が協力して脱炭素計画を迅速かつ効果的に進めることができます。

3-5. 脱炭素経済への資金流入の推進

 脱炭素経済への移行を実現するためには、金融機関が積極的に環境関連分野へ資金を流入させることが不可欠です。グリーンボンドやESG融資プログラムを通じて、再生可能エネルギーや低炭素技術を持つ企業への支援が加速しています。これにより低炭素型の事業モデルが育成され、結果的に、社会全体のGHG排出量削減に貢献しています。このような資金流入は、環境負荷を軽減するだけでなく、新たな経済成長の機会を創出し、金融機関にとって持続可能な収益基盤にもつながります。

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4. 投融資先企業との協力による排出量削減

4-1. 脱炭素計画の策定支援

 金融機関は、投融資先企業が脱炭素を進めるための計画策定を多面的に支援しています。具体的には、企業が自身の「排出量プロファイル」を正確に把握し、それに基づく実行可能なロードマップを作成するサポートを行うことが挙げられます。これは、気候関連リスクを減少させるだけでなく、持続可能なビジネスモデルへの転換を促進する重要なプロセスとなります。また、金融機関が投融資先企業と連携し、課題を共有しながら計画を具体化することは、サステナビリティ目標の達成に大きく寄与します。

4-2. 排出量データの共有と透明性

 投融資先企業のCO2排出量を正確に把握し、管理するためには、金融機関と企業の間でのデータ共有が欠かせません。このため、金融機関は、排出量測定ツールや分析プラットフォームを活用しながら、透明性のあるデータ管理体制を整えています。例えば、国際的な基準であるPCAFスタンダードを活用することで、統一的で信頼性の高いデータを基にした判断が可能になります。これにより、投融資先企業の進捗状況や課題が明確化し、双方が目標に向けた適切なアクションを取ることが容易となります。

4-3. サステナビリティ目標達成の共同イニシアチブ

 金融機関と投融資先企業がサステナビリティ目標を共同で追求することは、より強力な脱炭素化推進の原動力となります。たとえば、具体的な目標を共有し、それに対するモニタリングや評価の方法を明確にすることで、進捗の可視化が可能になります。また、持続可能な経済システムへの移行には、各プレイヤー間のコラボレーションが必須であり、国際的なイニシアチブへの参加や共有戦略の策定が求められています。このような取り組みを通じて、効果的かつ効率的に環境目標を達成することが可能となります。

4-4. グリーンボンドやESG融資の役割

 金融機関は、グリーンボンドやESG融資といった投資手法を通じて、企業の脱炭素化プロジェクトを資金面で支援しています。これらの手法は、環境へのインパクトを重点的に評価する仕組みを持ち、企業が長期的に持続可能な事業モデルを実現するための後押しとなります。また、金融機関自身にとっても、ESG投資はネットゼロの目標達成に向けた重要な要素であり、気候リスクと収益性を同時に考慮した資金運用のモデルケースを提供しています。

4-5. 持続可能な事業モデルへの変革

 金融機関は、投融資先企業が持続可能な事業モデルへと変革を遂げるプロセスを支援しています。特に、化石燃料などの高炭素事業から再生可能エネルギーや低炭素技術への移行に対し、専門知識や財務リソースを活用しサポートを行うことが求められます。このプロセスでは、企業の長期的なビジョンを尊重しつつ、短中期的な課題に対する具体策が金融機関と企業の間で策定・実行されることが重要です。さらに、持続可能な事業モデルへの転換は、金融機関のGHG排出量削減にも間接的に寄与するため、気候関連のリスク軽減と収益性向上を両立する大きなチャンスとなります。

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5. 今後の展望と課題への対応策

5-1. 規制の進展による影響と機会

 金融機関にとって、規制の進展は大きな課題である一方で、新たな機会ももたらします。気候関連情報の開示は、任意から規制へと移行しており、国際金融報告基準(IFRS)によるサステナビリティ開示基準策定などが進んでいます。これにより、金融機関は投融資先のGHG排出量を正確に測定し、開示する責任を負うことになります。同時に、これが進展することで、金融機関は透明性の高いデータに基づいた意思決定を行うことが可能になり、サステナブル投資や脱炭素関連事業への資金供給で市場の信頼を獲得するチャンスが広がります。

5-2. 技術革新がもたらす変化

 技術革新は、金融機関がGHG排出量を管理し、投融資先の環境負荷を軽減するうえで重要な役割を果たしています。例えば、NTTデータの「C-Turtle®︎」や三井住友銀行が進めるGHG排出量可視化ソリューションの導入は、投融資ポートフォリオ全体の排出量管理を効率化する一助となっています。また、人工知能やデータ分析技術が進展することで、排出量プロファイルの綿密な解析やリスク管理の高度化も期待されています。こうした技術的な進化により、金融機関は従来に比べて迅速かつ的確な対応が可能となり、気候変動への対応力が強化されます。

5-3. 金融業界の持続可能性向上への期待

 金融業界は、投融資先のGHG排出量を削減することで、社会全体の脱炭素化に寄与する役割を担っています。これにより、単に規制遵守を目指すだけでなく、持続可能なビジネスモデルを支援する重要な存在となっています。金融機関の「ネットゼロ」を目指した取り組みの推進や、PCAFスタンダードへの準拠した排出量算定の普及は、全産業のサステナビリティ向上への貢献につながります。このような業界全体の努力により、金融機関への社会的信頼が向上し、長期的な価値創造が期待されています。

5-4. 新しい計測基準とその課題

 新しい計測基準の導入は、金融機関にとって排出量算定の精度向上と透明性確保につながります。しかし、その一方で、計測基準の統一化や適応プロセスには課題があります。PCAFスタンダードやGHGプロトコルなどに基づいた算定基準の普及が進む一方で、各国や地域での基準の差異や、データの不完全性が混在しているのが現状です。これらの課題を克服するためには、金融機関による継続的なデータ収集と精査、さらには排出量管理に特化した新技術の積極的な採用が求められます。

5-5. グローバルな協力体制の必要性

 気候変動という地球規模の課題に取り組むためには、金融業界内外でのグローバルな協力体制が必要不可欠です。GFANZなどの国際イニシアチブを通じて、金融機関は互いに知見を共有し、統一基準の策定や投資戦略の標準化を図っています。また、各国政府や非政府組織とも連携し、公的支援と民間資本のギャップを埋める取り組みも進められています。このような国際的な連携を強化することで、金融機関は気候変動対応へのリーダーシップを発揮すると同時に、持続可能な経済発展を牽引していくことが期待されています。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)