内部監査は、公正で独立した立場から経営諸活動を監査・評価し、意見を述べ、助言・勧告を行う業務です。内部監査の重要性は、経営目標の達成、リスク・マネジメント、内部統制の有効性、組織体の効率化、情報システムの運用、環境保全に対応するためにに欠かせないものであり、内部監査職の存在は、組織のステークホルダーや顧客に対しても信頼性を示す重要な要素になります。
3ディフェンスライン
組織体において効果的かつ効率的なリスク・マネジメントおよびコントロールの方法の一つとして3つのディフェンス・ライン(Three Lines of Defense)・モデルの活用が 提唱されています。
一線における自律的統制、二線による牽制機能、独立した三線が内部監査を実施することで、リスクガバナンスの適切性・有効性を確保しています。三線である内部監査部門は、組織全体のリスク管理やコンプライアンス体制、金融システムの安定性を確保する重要な役割を担っています。
【3ディフェンスラインの役割】
(出所)一般社団法人日本内部監査協会の資料をもとにコトラが作成
監査業務
監査は企業内の監査部門で実施される「内部監査」と外部の専門家が実施する「外部監査」に区分することができます。
日本における監査制度は、会計処理を対象とする監査領域から、平成元年に会計処理を対象としない領域、すなわち「企業活動の妥当性の検証」へと監査領域が広がりました。昨今では、企業のIT化の進展に伴い、会社の情報システムの信頼性・安全性・効率を監査するIT監査の重要性も増しています。
【主な監査業務】
(出所)コトラが作成
内部監査転職市場の動向
2022年、内部監査の求人数は2015年と比べて約7倍に増加しました。これは、2006年に改正された会社法で、大企業では内部統制整備が義務化され、内部監査を設置することが必須となり、2015年の会社法改正では、企業集団および監査体制の強化と、運用状況の開示が求められるようになったことが背景にあります。
【内部監査求人案件数】
(出所)自社データをもとにコトラが作成
内部監査の求人は、上場企業やIPO準備企業など上場基準に準じた企業で設置する傾向が強く、また昨今、以前と比較して法令順守が強化される風潮が強まり、内部管理体制を整備したいと考える企業は増加傾向にあります。
採用傾向については、大手金融機関・事業法人の募集が増えています。また、監査の専門人材は決して多くないことから、金融機関では専門スキルを持った人材や若手ポテンシャル人材や海外拠点に対する海外監査の募集等も増えています。
内部監査領域の転職事例
内部監査領域の転職事例に関して、コトラでお手伝いした事例の一部をまとめてみました。
(出所)自社データをもとにコトラが作成
以前は業務経験豊富な40代後半から50代以上のベテランを募集することが多かったのですが、最近は以前同様にベテラン層の採用はありつつも、組織の若返りと組織強化を目的として、30代若手の求人も増加しています。
・金融機関
コンサル、監査法人にいる若手経験者、または同様の金融機関での経験を持っている人材の求人が目立ちます。50代であっても2線の経験があれば監査未経験でも十分通用します。
また、金融機関では専門家人材の不足により、今後も内部管理体制の強化を目的としたリスクマネジメント領域に対する求人が増加していく可能性が高いです。
年収面では高年収を確保することは可能ですが、仕事のボリュームもあり、時期にもよりますが残業が多くなることもあります。
・コンサルティングファーム
事業会社・金融機関のアドバイザリー業務の増加に伴って、監査求人が増加しています。
コンサルティングファームとしての働き方は以前と比べて、リモートワークの導入などもあり、ワークライフバランスが取りやすくなってきていると言われています。
・監査法人
会計監査の需要は変わらず増加傾向にあります。コンサルティングファームと比べると、監査法人の方が働きやすい環境にあると言われることが多いです。
・事業法人
以前は大企業の求人が殆どでしたが、スタートアップを目指すIPO準備企業など内部管理体制を整備するための求人も徐々に増えてきております。
内部監査領域の人材流動
異業種間の人材流動としては、金融機関・事業法人と監査法人・コンサルティングファーム間で最も活発となっており、銀行・証券・アセマネ間でも流動が見られます。
また、監査法人から転職する場合は転職先を選べるケースが多く、特に監査法人から金融機関への転職の場合、処遇が良くなる傾向にあります。監査法人・コンサルティングファームと事業会社両方の経験があると、転職が有利になる傾向もあります。
(出所)コトラ作成
内部監査転職に有利な経験と資格
内部監査の転職には、J−SOX対応業務経験、業務監査経験、IPOの経験者など、実務経験や会計知識のある方が有利です。ポジションによっては、若手ならば未経験のポテンシャル採用での転職も可能です。
海外監査などに対応するためのビジネスレベルの英語力も武器となりますし、内部監査関連の資格としては、主にCIAとCISA、公認会計士が転職に有利となります。
【内部監査関連の資格】
(出所)公開情報をもとにコトラが作成
ITの進展と企業を取り巻く経営環境の変化に加え、社内外のステークホ ルダーからの要求も多様化・高度化しています。グローバルな事業展開や業務の複雑化が進展している中、内部監査の高度化が求められています。
そのような内部監査の高度化に対応できる人材として、被監査部署や外部専門家等との円滑なコミュニケーションができること、加えて組織や事業及び監査手法に精通する人材は高く評価されています。
昨今では、データ分析等ITを活用した監査手法の高度化も見られることから、これに対応できる監査人材の需要は今後高まると考えられます。
内部監査転職の魅力
最後に、内部監査領域の転職をお手伝いしている経験から、この領域での転職の魅力をご紹介します。
内部監査というポジションは、会社の問題点を指摘し、改善し、業務を効率化していくことで会社の発展に貢献することができます。会社の中にある独立した組織の中で、会社全体を俯瞰した立場で仕事をすると共に、経営層と近い立場で仕事ができることも醍醐味です。
まだ若手の経験者が少ない領域であり、若手でこの領域の専門家としてキャリアを形成していこうと考える方にとっては魅力的な市場でもあります。若手専門人材が非常に少ない今、早い段階から監査の経験を積んでおくことで、年齢を重ねた時にキャリアアップや希望の業界へ転職できる可能性は非常に高いです。
一方、業務内容を熟知したベテランの求人数は一定数あるため、40代後半〜50代の方にとっては、専門スキル、資格取得をすることで上位ポジションでの転職が可能です。
組織を取り巻く環境は変化し続け、更なるリスクの多様化・複雑化が考えられることから、今後も内部監査求人数の増加傾向は変わらないものと予想されます。今からこの領域に取り組むことで、将来的なステップアップも見込めます。
また、海外拠点の監査においては、海外赴任が発生する案件もありますので、海外志向のある方にとっては、魅力的なキャリアアップのチャンスともなります。
弊社では、様々な内部監査領域の転職事例がございますので、長期的視点でキャリアパスを考えるお手伝いも可能です。この記事をご覧になり、少しでもご関心を持っていただけましたら、お気軽にご相談をいただければ幸いに存じます。
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