製造業においては、データアナリティクスの与えるインパクトの大きさにより、早期から活用されてきました。
当初は、製造コストや間接費の削減への貢献が中心でしたが、扱えるデータ量や収集範囲の拡大、更には、処理性能面でもリアルタイム制御やフィードバックが可能なレベルまで向上しています。
その為、「インダストリアルIoT」・「スマートファクトリー」と言った名の下、製造工程のオートメーション化に留まらず、マーケティングや調達と言った他機能との有機的な連携を実現しつつあります。
ビッグデータの活用により、製造業は次世代への進化を遂げようとしているのです。
本記事では、そんな状況が垣間見られるビッグデータの活用事例を、海外を中心に紹介します。
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製造業におけるビッグデータ活用事例20選
Intelのビッグデータ活用 企業名/Intel アメリカ
アメリカのインテルはプロセッサーの製造にビッグデータを活用してきました。チップメーカーは全てのチップを出荷前にテストしないといけませんが、そのテストの数は約19,000にも及んでいました。インテルはビッグデータを活用することにより、製品の品質を保証する為に本当に必要なテストを見極めることができるようになり、テストに必要なコストを大幅に削減できました。その効果は1ライン辺り3億円にも及び、インテルはビッグデータを活用する事で新たに30億円のコスト削減ができると見込んでいます。
HPのビッグデータ活用 企業名/HP アメリカ
HPはアメリカの電子機器メーカーで、コンピューターやプリンター等を製造しています。HPもビッグデータを活用して品質改善に努めています。製造中に得たデータと出荷後のパフォーマンスを比較・分析することで継続的な改善を続けています。これは、出荷後製品から送信される大量のテレマトリーデータを解析することで実現しています。また、顧客が利用中の製品のパフォーマンスに関するデータを把握することで、故障の予兆があれば能動的にメンテナンスを提案する等のサービスの改善にも繋がっています
GMのビッグデータ活用 企業名/GM アメリカ
アメリカの大手自動車メーカーであるゼネラルモーターズも、ビッグデータを活用した製造プロセスの改革に取り組んでいます。自動車に設置された無数のセンサーから収集が可能な情報は大量かつ多岐に渡り、出荷後の自動車のパフォーマンスや故障率をモニタリングすることで継続的な品質改善に繋げています。ディーラーのシステムと工場を連携させ、そこから収集できるデータから需要を予測し、工場の稼働を調整する等、製造に関する様々な分野でビッグデータを活用しています。
サムスン電子のビッグデータ活用 企業名/サムスン電子 韓国
http://www.samsungsds.com/global/en/enterprise-asset/Nexplant_analytics_ppt.html
韓国のサムスン電子もビッグデータを活用して製品品質の向上、工場のオペレーション効率化を推進しています。「Nexplant Analytics」はサムスンが外部向けに提供する工場向けのビッグデータソリューションで、必要な機能を総合的に提供します。設置されたセンサーから収集される情報をもとに、品質低下の原因となっている製造ラインや機器の特定、製造ライン上の異常の検知や、故障可能性が高い箇所の予測等の機能を提供し、工場の製造プロセス全体をデータドリブンなオペレーションに進化させることをサポートします。
富士ゼロックスのビッグデータ活用 企業名/富士ゼロックス 日本
http://www.landscape.co.jp/seminar/20131121_1311.html
http://www.crmsearch.com/internetofthings.php
日本の富士ゼロックスもビッグデータを自社の品質とサービスの改善の為に役立てています。従来型のコピー機は故障時に顧客からの申告に基づいて作業員を派遣し、原因を特定し修理を行っていましたが、現在では常時コピー機から送られる機器のパフォーマンスデータに基づき、故障の検知や事前の手当が可能になっています。作業員の派遣が必要な場合も、故障の箇所や原因が事前に特定できている為、必要な準備を事前に行うことができます。送信される大量のパフォーマンスデータは製造プロセスにも活用され、故障を引き起こしやすいパーツの見直しや、プロセスの改善が継続的に行われています。
レイセオンのビッグデータ活用 企業名/レイセオン アメリカ
レイセオンはアメリカの大手軍事関連機器メーカーです。軍事産業でも製造システムにビッグデータが活用され、サプライチェーンマネージメントのデータドリブン化によって品質の改善やコスト削減が行われています。レイセオンがアラバマ州に持つ工場では、製造過程において、ひとつひとつのネジの回転回数までをもセンサーでモニタリングし、ネジの回転数に誤りがあった場合など、一つ一つのプロセスが適切に完了していなければ次のステップに進めないといった制御が行われています。出荷後はミサイルからのデータを取得し、製造工程で記録されたデータと実際のパフォーマンスを分析して品質を向上に役立てています。
ハーレーダビッドソンのビッグデータ活用 企業名/ハーレーダビッドソン アメリカ
アメリカの大手バイクメーカーであるハーレーダビッドソンもビッグデータを活用してサプライチェーンマネージメントの改善を進めています。ペンシルベニア州の工場の塗装過程では、湿度や温度といった塗装の品質に影響し得るデータが既定値を超えるとソフトウェアが検知し、作業場の環境を最適に自動で制御するように改革を行いました。作業員の感覚に頼らず科学を導入することで環境に一貫性を持たせ、品質への影響要因を減らすことができ、大きなコストの削減に繋がりました。
OU Kosherのビッグデータ活用 企業名/OU Kosher アメリカ
OU Kosherはユダヤ教の教義に則った食料品を認証する機関で、世界で8,000以上、85,000以上の製品の製造プロセスを監視し、認証を行っています。彼らはセンサーを用いてこの膨大な数の工場でポリシーに反した原材料が使われていないかをモニタリングしています。使用があった場合はシステムが検知を行い、工場への警告、猶予期間の通知を自動で行うだけでなく、自社のデータベースから代替の原材料の提案までを行います。
3Mのビッグデータ活用 企業名/3M アメリカ
http://www.3mhisinsideangle.com/tag/big-data/
3Mはアメリカ合衆国ミネソタ州に本拠地を置く世界的化学・電気素材メーカーです。彼らは会社組織の各所に点在していたデータを中央集権型に一箇所に集め、意思決定支援を行うシステムも全社員が共通のシステムを使う体制に変革を行いました。1つの事実に基づいてコミュニケーションを行うことで意思決定の精度が上がり、間接費用のコストの削減など大きな効果をもたらしました。その後、製造現場においても、異常検知や問題の事前予期などでビッグデータアナリティクスが有効活用されています。
ダイムラーのビッグデータ活用 企業名/ダイムラー ドイツ
http://www.j-cast.com/2006/08/29002739.html
http://media.daimler.com/marsMediaSite/en/instance/ko/The-smart-factory-The-completely-networked-value-chain.xhtml?oid=9905147
ドイツの高級自動車メーカーであるダイムラーはデータの活用による持続的な品質の改善を行い顧客満足度の上昇を目指しています。ダイムラーは製造現場、車両、そしてサポート等のサービスという、主に3つのポイントから収集されるデータを用いて問題の分析・改善を行っています。特に問題や欠陥の発見を早期化することに力を入れています。これは自動車の場合、採用する部品の不良や設計上の欠陥が製造・販売後に発見されると重大な安全上の問題に繋がるだけでなく、リコール等によって対応コストが膨大になる可能性が高いからです。収集されたデータから欠陥を起こしそうな部品や素材を早期に発見して改善を行うことで、偶発的なコスト発生の予防、ひいては故障が少ない車を提供し、顧客満足度の向上に繋がっています。
フォードのビッグデータ活用 企業名/フォード アメリカ
アメリカの最大手自動車メーカーであるフォード社は「One Ford」という競争戦略の中で、「One Data Ford」というグローバルに点在していた様々なデータを、統合的で部門横断的に活用できるデータ分析プラットフォームを創造しました。これにより、例えば製造部品の一つ一つが「どこの工場で誰の手によって製造されたのか」といった非常にミクロなポイントまでをトレースすることが可能になり、何か問題や課題が生じた際には解決スピードを大きく上げる事ができました。リコールが発生しても対象を限定できるといったリスクマネジメントや偶発コストの発生予防での貢献、顧客のフィードバックを即時製造現場に反映できるといった品質改善への貢献等、大きな成果が上がっています。
フリースケール・セミコンダクタのビッグデータ活用 企業名/フリースケール・セミコンダクタ アメリカ
フリースケール・セミコンダクタは、アメリカ合衆国テキサス州に本拠地を置く組み込み半導体製品の設計・製造企業で、現在はオランダのNXPセミコンダクターズに吸収合併されています。元々はモトローラ社の半導体部門であり、分離・独立をしてフリースケールになりました。分離当時は世界に点在している製造工場や拠点に存在するデータを1つのデータウェアハウスに集約するという作業からスタートし、全社的な業務システムとデータハウスを有機的に結びつけることで歩留り分析、サイクルタイム分析、生産性分析、返品分析といった生産性向上の為に必要な分析を、スピードを伴って実現可能にしました。
グラクソ・スミスクラインのビッグデータ活用 企業名/グラクソ・スミスクライン イギリス
イギリスのグラクソ・スミスクライン社は世界的な製薬会社で一般薬品からワクチンまで幅広く研究・開発・製造・販売を行っています。環境変化が激しい現在のビジネス環境への対応を図る為、グラクソ・スミスクライン社は複数のデータウェアハウスが存在していた状況を脱却してデータベースの一元化を図りました。一元管理がされることでビジネス部門においてはより効果的な分析とそのスピードアップによる競争力の向上、そしてIT部門でも法制度の変更やオペレーションの変更時に、必要なシステムやデータベースの修正作業が大幅に限定されコストを大幅に削減しました。現在、製薬領域ではビッグデータ活用に大きな投資が行われおり、グラクソ・スミスクライン社はSASと提携してビッグデータの活用を推進しています。
Navistarのビッグデータ活用 企業名/Navistar アメリカ
アメリカの大手トラックメーカーであるNavistar では、「OnCommand Connection」という車載センサーから収集されるデータを分析して、業務改善が行えるソリューションを自社が製造するトラックに搭載しています。車両の運用を行う事業者にとってはメンテナンス時期を把握する等の運用管理コストを低減する役割を担い、メーカー側には問題箇所の把握と製造へのフィードバックによる品質改善、修理が必要な車両の状況や台数を事前に把握できることから工場の修理対応リソースを調整し、期間短縮を可能にして顧客満足度の向上に繋がっています。2017年にはこのソリューション自体をサービス化し他のメーカーでも利用可能にすることを発表しています。
PINGのビッグデータ活用 企業名/PING アメリカ
http://shop.golfdigest.co.jp/newshop/f/mkr_00030
PINGはアメリカの老舗ゴルフ用品メーカーです。PINGはカスタムゴルフクラブを製造・販売しており、受注後48時間以内に納品を行うという高い目標を実現する為にビッグデータを活用しています。注文を受けてから材料の調達や製造ラインの手配を行っているのでは、決してこの目標を達成する事ができないと判断し、ビッグデータアナリティクスによって顧客の過去の注文傾向や市場の動向やトレンド、自社への問い合わせ状況といったデータから予測を行い、常に先回りをして製造を行っています。
ボルボのビッグデータ活用 企業名/ボルボ スウェーデン
ボルボはスウェーデンの大手自動車メーカーです。ボルボのデータ活用の歴史は早く、1999年時点で、ボルボ製車両すべてにおいて車載センサーからデータの収集を開始しています。早期の取り組み開始の甲斐あって、ボルボでは既に80-90%の車両が顧客の了承を伴ってインターネットに接続されたコネクテッドカーとなっており、自動車から様々なデータがボルボに送信され集まっています。ボルボは2011年に”Designed Around You.” という新しい全社戦略を打ち出しています。これはデータドリブンな改善を軸に、製品デザイン、品質、コスト削減、顧客満足の向上を全社的に推進していくというものです。
ボーイングのビッグデータ活用 企業名/ボーイング アメリカ
http://boeing.mediaroom.com/2016-07-13-Boeing-Announces-Data-Analytics-Agreements-with-Six-Airlines
アメリカの航空機メーカー最大手、ボーイングもビッグデータの活用を推進しています。ボーイングは航空機のエンジンやブレーキといった部品に搭載されたセンサーから収集される情報と故障のデータを分析し、故障が発生しやすいコンディションの特定・回避、故障の事前予測によるメンテナンスの早期化といったサービスを、機体を運用する航空会社に提供しています。このデータは製造現場にもフィードバックされ、製造プロセスの改善や品質の向上に繋がっています。
ユニクロのビッグデータ活用 企業名/ユニクロ 日本
日本の大手アパレルメーカーであるユニクロも、ビッグデータを活用して製造プロセスの改善に取り組んでいます。顧客からのフィードバックや市場調査を起点に企画、調達、製造という段階的に進めていく従来の製品開発プロセスでは時間が掛かりすぎてしまい、移り変わりが早いアパレル市場のトレンドに対応することができない為、ビッグデータを活用した予測型のサプライチェーンマネージメントへ変革を行い、製造や調達といった全社の各機能がリアルタイムな予測に基づいて自発的にアクションが可能で、並行的な商品開発が可能な製造体制を構築することを目指しています。
ホンダのビッグデータ活用 企業名/ホンダ 日本
日本を代表する自動車メーカーであるホンダはIBMと協働でビッグデータを活用した製造プロセス改善に取り組んでいます。同社が販売する電気自動車においてもビッグデータが活用されており、電気自動車のカギであるバッテリーに搭載されたセンサーから送信されるデータを収集して品質の改善に取り組んでいます。電気自動車のバッテリーは依然としてパフォーマンスが安定しないという課題があり、走行環境や使用状況に応じたパフォーマンスの変化を常時把握する事でバッテリー性能の改善に繋げています。
シーメンスのビッグデータ活用 企業名/シーメンス ドイツ
http://insidebigdata.com/2015/04/28/big-data-for-manufacturing-case-study-omneo/
「Omneo」はシーメンスが製造業向けに提供する、サプライチェーンマネージメントソフトウェアです。シーメンスはOmneo上でビッグデータ解析が行えるよう、Dell社とCloudera社と協業し、Hadoopベースのデータドリブンな意思決定が可能な、サプライチェーンマネージメントシステムを構築しました。ユーザーは自社のサプライチェーン上で何が起きているかをダッシュボード上で即座に把握する事ができ、問題の解決に必要な分析を瞬時に実行できるようになりました。
製造領域の活用事例を紹介してきました。スマートファクトリーやインダストリー4.0で提唱されているように、今後の工場は世界中に存在するコネクテッドなモノと繋がって自律的に判断・稼働するようになります。地球の裏側の南アメリカで降った雨がきっかけで、日本の工場にある1つの3Dプリンターが製造を開始するかもしれないのです。製造業に限らず、ビッグデータはあらゆるビジネス領域で導入・活用が進んでおり、今回の事例でもあったような、「一人ひとりの社員がビッグデータアナリティクスを活用できる環境」を整備し、競争力をつけようと、データ解析ソリューションの導入や社員教育を進めています。今後も製造現場でのビッグデータ活用から目が離せません。
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