会計監査で培った財務・業務プロセスの知見、内部統制やコンプライアンスへの理解は、総合リスク(統合リスク)管理業務においても高く活かすことができます。ERM(Enterprise Risk Management)の視点から企業全体のリスクを可視化し、戦略と整合したリスク管理体制を構築するこの職域では、リスクの定量・定性両面を理解し、経営と現場の橋渡しをする力が求められます。本記事では、会計監査から統合リスク管理へ転職するためのステップ、必要なスキル、志望動機と職務経歴書の記載例をご紹介します。
目次
1. 会計監査と統合リスク管理の違い
項目 | 会計監査 | 統合リスク管理 |
---|---|---|
目的 | 財務報告の適正性評価 | 企業の持続的成長に向けたリスク最適化 |
関与部門 | 経理部門、監査役 | 経営層、各事業部、内部監査部門 |
業務内容 | 統制評価、証憑確認、監査意見表明 | リスク評価、ERM構築、リスクレポート作成、教育 |
2. 活かせるスキルと経験
- 内部統制・J-SOXに関する構造的理解
- リスク対応状況の文書化と改善提案スキル
- 業務全体を俯瞰する力、業務記述書の作成経験
- コンプライアンス・ガバナンスの実務知識
- 経営層・現場との調整スキル
3. 転職を成功させるステップ
- ERM(統合的リスク管理)の基礎を学ぶ:ISO31000、COSO-ERMフレームワークの理解
- 監査経験の中でのリスク管理要素を棚卸し:不備指摘、リスク因子の特定、是正指導の経験
- リスクの定性・定量評価手法を学ぶ:ヒートマップ、スコアリング、シナリオ分析など
- 志望動機では“経営と現場をつなぐ役割”を明示:組織の成長に寄与するリスク管理への想いを言語化
4. 求められる知識と補完方法
- 統合リスクマネジメント(ERM)概論
- BCP(事業継続計画)、KRI(重要リスク指標)
- リスクカテゴリの整理(戦略・財務・オペレーショナル・風評など)
- 内部監査との連携・リスクアセスメント技術
- 参考:『COSO ERM実践ガイド』『ERMの教科書』など
5. 職務経歴書の記載例
氏名:佐藤 絵里 生年:1990年生まれ ■職務要約: 大手監査法人にて約8年間、上場企業の会計監査に従事。内部統制の整備・運用状況の評価、業務フロー分析、経営課題の抽出・改善提案などを多数経験。今後はこれまでの監査・統制評価スキルを活かし、企業全体のリスクマネジメント体制構築に携わる統合リスク管理の分野で貢献したいと考えている。 ■職務経歴: ○○有限責任監査法人(2016年4月〜現在) ・J-SOX文書レビュー・内部統制改善提案(IT統制含む) ・IPO準備企業における業務リスクの整理・可視化支援 ・統制設計・リスクマトリクス作成の主担当経験 ・経営者向けリスクアセスメント報告支援 ■保有資格: ・公認会計士 ・ERMアドバイザー検定(任意) ・TOEIC 860点 ■学歴: 一橋大学 商学部 卒(2013年3月)
6. 志望動機の記載例
監査業務を通じて企業の内部統制や統治体制を数多く見てきましたが、単なる制度順守ではなく、経営に資するリスク管理の重要性を強く感じるようになりました。今後は、企業の持続可能性と戦略に沿った統合リスク管理を実現する立場で、これまでの統制・監査スキルを活かして貢献したいと考えております。
7. まとめ
会計監査のバックグラウンドは、統合リスク管理というより広い視座でのリスクアセスメントやERM構築において非常に価値のある経験です。経営に寄与するリスク管理体制を支えたいと考える方にとって、会計監査からの転身は自然かつ有望なキャリアの一手といえるでしょう。