銀行や信用金庫などの金融機関において法人融資業務を経験した後、より事業に深く入り込み、企業価値向上に貢献するキャリアとして、プライベートエクイティ(以下PE)ファンドへの転職を目指す人が増えています。特にバイアウトファンドや事業再生ファンドは、財務知見と現場支援力の両立が求められるため、コーポレートファイナンス出身者にとって相性の良い転職先の一つです。本記事では、法人融資からPE業界へのキャリアチェンジを成功させるためのステップや求められる能力について解説します。
1. PEファンドの業務概要と求められるスキル
PEファンドとは、非上場企業に投資を行い、経営改善や成長支援を通じて企業価値を高め、一定期間後に売却してリターンを得る投資手法です。バイアウトファンドではM&Aを通じた企業買収、事業再生ファンドでは経営不振企業の再建が主業務となります。
- 投資候補企業のソーシングと精査(ソーシング/エグゼキューション)
- 財務モデリング・バリュエーション
- デューデリジェンスの推進
- PMI(統合プロセス)のマネジメント
- EXIT戦略の立案と実行
2. コーポレートファイナンス出身者の強み
法人融資に携わってきた人材は、以下の点でPE業界での活躍が期待されます:
- 財務三表の構造理解と定量分析能力
- 企業への与信判断や返済計画の構築経験
- リスク管理・担保評価のスキル
- 経営者との対話・提案力
- M&Aや再生案件に関する現場経験(ある場合)
3. 求められる追加スキルとその獲得方法
一方で、融資出身者がPEファンドに移る際には以下のスキルが不足しがちです:
- LBOモデルの構築経験
- ビジネスデューデリジェンスの知見
- 事業DD・商流理解・業界分析
- 投資先企業との経営課題の解決スキル
これらは以下の方法で補うことが可能です:
- FAS、M&A仲介、再生支援などのプロジェクトに参加
- 財務モデリング研修やLBOケースの自主学習
- 副業として中小企業支援(経営支援団体・自治体等)を行う
4. 転職成功のための3ステップ
- ステップ1:投資・再生業務の全体像理解
PEファンドの投資実績、投資哲学、EXIT事例を把握することで、業界理解を深めます。 - ステップ2:自己分析と応募先のマッチング
バイアウトか再生型か、投資フェーズかハンズオン支援か、自身の志向に合わせて応募企業を選定。 - ステップ3:選考対策の徹底
ケース面接、財務モデリング試験、PE業界への関心と成長意欲の一貫性が問われます。
5. 志望動機(例)
これまで法人融資業務を通じて、数多くの企業の財務状況や成長課題に触れてきました。その中で、単なる金融支援だけでは解決できない経営課題に直面することが多くあり、今後は資本と知見の両面から企業の変革を支援したいと考えるようになりました。貴ファンドのように中小企業や事業承継の現場で価値を発揮されているチームであれば、私の財務分析力やリスク管理スキルを活かしつつ、より実践的な経営改善に関われると確信しています。
6. 職務経歴書(サンプル)
氏名:田中 一郎 年齢:34歳 最終学歴:◯◯大学 経済学部 卒業 【職務概要】 XYZ銀行 法人営業部 (2013年4月〜現在) 役職:課長代理 【業務内容】 ・中堅・中小企業(年商10〜300億円)への融資提案、信用調査、格付審査 ・担保評価(不動産、売掛金、在庫)、条件交渉、契約執行 ・事業再生案件(返済猶予、スポンサー探索等)の実務経験あり ・経営者との定期面談による課題抽出、再編提案 ・資金繰り表・資本政策資料の作成支援 【実績】 ・年間融資新規実行額:約50億円(2022年度) ・財務改善支援による格付2段階向上事例あり(業績V字回復) ・M&Aファイナンス案件:3件アレンジ経験(スポンサー側) 【保有資格】 ・中小企業診断士 ・日商簿記2級 ・TOEIC 785点 【使用ツール】 ・Excel(財務モデリング、関数、ピボット) ・PowerPoint(経営支援提案資料)
PEファンドでは、財務分析力だけでなく、経営者視点での課題設定力や改善実行力が求められます。融資業務で培った「数字」と「経営」の接点をより深化させ、現場を動かす当事者としての覚悟を持つことで、ファンド業界でも高い付加価値を発揮することができるでしょう。