国内外の産業構造が大きく変化する中、総合商社や専門商社は従来のトレーディングに加え、「企業投資」を通じた中長期的な成長戦略を強化しています。こうした中で、事業開発(BizDev)に従事していた人材が商社の投資部門に転職する例が増えてきました。
本記事では、事業開発から商社の企業投資部門へキャリアを転換するための具体的なステップや、必要なスキル、転職活動でのアピール方法を解説します。最後に志望動機と職務経歴書の例文もご紹介します。
商社の「企業投資」とは?
商社における企業投資とは、国内外の有望企業への出資を通じて、リターンの獲得と事業シナジーの創出を目指す取り組みです。
- スタートアップ・ベンチャー投資
- 海外現地法人への出資・M&A
- プラント・エネルギー・インフラ事業への投資
- 事業パートナーの資本参加によるアライアンス形成
投資家としての視点と、事業運営の実務感覚を併せ持った人材が求められるのが特徴です。
事業開発出身者が商社の企業投資に向いている理由
事業開発に携わった経験は、商社の企業投資部門でも大きなアドバンテージになります。その理由は以下の通りです:
- 新規事業の立ち上げに伴う市場分析・財務試算経験
- 外部パートナーとの提携交渉・契約締結経験
- KPI設計や事業計画立案、PoC実行の経験
- リスクマネジメントや中長期戦略の視点
企業投資部門では「投資後の事業価値をどう高めるか」が極めて重要な視点であり、事業開発経験者はその本質に近いスキルを既に持っています。
転職のためのステップ
ステップ1:投資業務の全体像を理解する
まずは商社における企業投資の一連の流れを理解しましょう。
- 投資先のソーシング
- ビジネス/財務/法務デューデリジェンス
- 企業価値評価(バリュエーション)
- 契約交渉(株式譲渡契約/投資契約等)
- 投資後のPMI(事業統合/モニタリング)
これらは投資銀行やFASと似たプロセスですが、商社では事業目線でのシナジーや実行力がより重視されます。
ステップ2:財務・投資知識の補強
経営や投資の意思決定に携わるには、以下のような知識があると強力な武器になります。
- DCF法やマルチプル法による企業価値評価
- 財務3表の理解(PL/BS/CF)
- 事業計画と資本政策の構築知識
- M&A関連契約(SPA, SHA, NDAなど)の基礎
資格としては日商簿記2級、USCPA、MBA、CFAなどが評価されやすいですが、実務での応用力がより重要視されます。
ステップ3:自身の経験を「投資目線」で棚卸しする
以下のような事業開発経験が、企業投資業務に直結します。職務経歴書で明示しましょう。
- 事業立ち上げに際しての市場調査・財務試算
- 外部パートナーとの出資交渉・業務提携
- 資本政策や持分比率設計の関与
- 新規事業のKPI設計、グロース施策立案
「価値を見極める目」と「事業を前に進める手」を併せ持つ人材としてアピールすることが重要です。
ステップ4:志望動機で「商社で投資をする理由」を語る
総合商社や専門商社の企業投資は、PEファンドやVCとは異なるスタンスがあります。「商社だからこそやりたいこと」を言語化するのが鍵です。
- 事業と資本の両面から企業成長に関わりたい
- 海外案件や産業変革に関わるダイナミズムに魅力を感じる
- ハンズオンで中長期的にバリューアップに関与したい
志望動機(例)
私はこれまで、IT系事業会社の新規事業開発部門にて、パートナー企業とのアライアンス構築や海外展開の企画立案に従事してまいりました。具体的には、〇〇市場向けの現地パートナー選定、PoC設計、損益試算に基づく事業スキームの立案など、ゼロベースでの事業構築を経験してきました。
その中で、単に事業を立ち上げるだけでなく、資本政策を通じた関係構築や、投資を起点とした成長支援の重要性を実感するようになりました。より幅広い業界・地域で、資本と事業の両面から価値を創出する商社の企業投資業務に強い魅力を感じております。
今後は、事業開発の実務力に加えて、財務分析や企業評価スキルも高め、商社の投資部門において長期的な価値創出に貢献してまいりたいと考えております。
職務経歴書(例)
■職務要約
IT系スタートアップおよび上場企業にて事業開発・新規事業立ち上げを担当。市場調査、ビジネスモデル構築、パートナー連携、財務シミュレーションなどを通じて、ゼロから事業を立ち上げ、推進する経験を複数有する。現在は企業投資分野へのキャリア転換を志向し、財務・投資に関する学習を継続中。
■職務経歴
株式会社〇〇(2020年4月~現在)
- 新規事業開発部にて以下を担当:
- 新規プロダクト開発に向けた市場調査・競合分析
- 財務モデル作成(損益分岐点分析、IRR試算)
- 海外パートナーとのアライアンス検討・契約締結
- 資本業務提携先との事業スキーム設計(持分構成含む)
- 海外市場向けPoCの企画と進捗管理
■資格・スキル
- 日商簿記2級
- 英語:ビジネスレベル(TOEIC 860点)
- Excel:財務モデリング・IRR計算・データ可視化
- PowerPoint:提案資料・社内稟議資料作成
まとめ:商社の企業投資で、事業と資本をつなぐ人材へ
商社における企業投資は、単なるファイナンス業務ではなく、「自らが主体者としてビジネスを動かす」ダイナミズムに満ちたフィールドです。事業開発の現場で培った思考力・実行力・交渉力は、商社投資の現場でも大いに活かされます。
次のキャリアとして、より大きな視野で事業成長と資本戦略に携わりたい方は、ぜひ商社の企業投資部門への挑戦を検討してみてください。