監査法人を変更するメリットとデメリット、あなたの会社はどうするべき?

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監査法人変更の背景と重要性

監査法人とは何か

 監査法人とは、企業の財務書類が適正かつ正確に作成されているかを確認する専門組織です。特に上場企業では、法定監査が義務付けられており、監査法人が財務諸表の監査証明を行います。この業務には、監査証明業務だけでなく、IPO支援や経営戦略の策定などのコンサルティング業務も含まれます。4大監査法人(BIG4)といわれる大手監査法人が市場の多くを占めていますが、準大手や中小規模の監査法人も存在感を高めています。

近年、監査法人の変更が増える理由

 近年、上場企業における監査法人の変更が増加傾向にあります。たとえば、令和4年6月期には228件もの監査法人交代が発生しており、これは過去5年間で最多の数です。この増加の背景には、いくつかの要因があります。

 一つ目の理由は、長期間同じ監査法人を起用することへの懸念です。長期的な関係が「なれあい」を生み、不正会計のリスクを見逃す可能性があるとして、監査法人の交代が推奨されています。二つ目に、準大手や中小監査法人の台頭があります。これにより、企業が監査報酬を抑えつつ質の高いサービスを受けられる選択肢が増えたことが、監査法人変更を促進しています。さらに、監査報酬の増加傾向も変更の要因として挙げられます。コスト削減を目指して他の監査法人に切り替える企業が増加しているのです。

監査法人の変更が企業にとって重要な理由

 監査法人の変更は、企業にとって単なる事務的な手続き以上の意味を持ちます。まず、経営の健全性を維持するためには、監査の質が重要です。同じ監査法人が長期間関わることで、見落としや偏りが生じる可能性があります。そのため、定期的な変更は企業にとって監査品質を高める機会といえます。

 また、変更によって新たな視点が取り入れられることで、企業の財務状況や内部統制の課題が新たに浮き彫りになる可能性があります。これにより、業務プロセスの改善やリスク軽減が期待できます。他方で、監査法人変更には引継ぎの手間や一時的な監査品質の低下といったデメリットも伴います。そのため、変更が企業にもたらす短期的および長期的な影響を十分に考慮することが重要です。

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監査法人を変更するメリット

費用削減の可能性

 監査法人を変更することで、監査報酬費用の見直しが可能になる場合があります。近年、監査報酬が増加傾向にあり、それに伴い企業が費用削減を目的として別の監査法人を選択するケースが増えています。特に準大手や中小監査法人が台頭しており、それらの事務所に切り替えることで、コストを抑えながら必要な監査を受けることができる可能性があります。ただし、実際の費用対効果をきちんと検討することが重要です。

新しい視点での監査

 監査法人を変更することで、新しい視点を経営に取り入れることが可能になります。長期間にわたり同じ監査法人が担当している場合、どうしても「なれ合い」や監査の形骸化が懸念されます。新しい監査法人は、これまでの業務内容を一から精査するため、新たなリスクや改善ポイントを発見する可能性が高まります。このプロセスは、企業の内部統制や財務報告の透明性を向上させる効果が期待できます。

業務改善と内部統制強化の期待

 監査法人の変更は、業務改善や内部統制の強化を促進する機会となります。新しい監査法人は、業務プロセスや内部統制の仕組みについて客観的かつ新鮮な視点で評価を行うため、企業はこれを受けて効果的な改善策を講じることが可能です。また、監査法人が提供する非監査証明業務やコンサルティング業務を活用することで、業務の効率化や経営課題の解決にもつながる可能性があります。

長期的な関係性の見直し

 監査法人を長期間変更しない場合、双方間の関係が固定化し、監査の公正性が損なわれるリスクがあります。特に長期にわたる関係においては「癒着」や「寛大な監査姿勢」が指摘されるケースもあります。定期的な監査法人の変更は、このような潜在的リスクを軽減し、ガバナンスの健全性を維持するための適切な手段となるでしょう。ただし、変更によるデメリットとのバランスを考慮することが必要です。

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監査法人を変更するデメリット

引継ぎ時のコスト発生

 監査法人を変更する際には、引継ぎに伴うコストが発生します。このコストは、単に財務情報を引き渡すだけでなく、新しい監査法人が企業業務を正確に理解するための資料の準備や、過去の監査記録の説明など、多岐にわたります。このようなプロセスは社内外双方での時間と労力を必要とするため、無視できない負担となることがあります。特に大規模な企業では、引継ぎにかかるコストがさらに高額になる傾向があります。監査法人の変更によるメリットが大きい場合でも、これらのデメリットを予算や時間面で事前に考慮する必要があります。

新監査法人の理解不足によるリスク

 新しい監査法人を採用した場合、監査プロセスを進める中で企業特有の業務実態や課題への認識不足がリスクとなることがあります。その結果、初年度の監査プロセスが予想以上に複雑化し、コミュニケーションにおいて齟齬(そご)や間違いが生じる可能性があります。また、導入直後の段階では両者の信頼関係がまだ確立されていないため、不測の問題が発生しやすいと言えます。特に、特殊な業界や複雑な財務構造を持つ企業では、理解不足のリスクはさらに高まります。

監査品質の一時的低下

 監査法人変更直後は、必然的に新しい監査法人において監査プロセスが未成熟な状態から始まるため、監査品質が一時的に低下する可能性があります。新しい監査法人が企業の業務に習熟するまでの期間が必要であり、その間に監査そのものの精度が荒くなるリスクが懸念されます。このような状況は、特に法的な問題や外部監査への対応が求められる場合、企業に多大な影響を及ぼす可能性があります。そのため、監査法人の切り替えによる一時的な品質低下を予想し、適切な対策を講じることが重要です。

内部リソースへの追加負荷

 監査法人の変更は、企業内部におけるリソースに追加的な負荷をかけます。新しい監査法人との連携をスムーズに進めるためには、財務部門や関連部署がこれまで以上に時間を割き、多くの調整業務を実施する必要があります。さらに、新監査法人が企業独自のプロセスを理解するには、内部スタッフが詳細な説明や資料提供を行う必要があり、このことが日常業務にしわ寄せを生じさせる可能性があります。このような内部リソースへの負担が長引くと、業務効率の低下や社員のストレス増加を招く懸念があるため、計画的な対応が重要です。

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監査法人を変更する際の判断基準

監査報酬の費用対効果を検討する

 監査法人を変更する際には、監査報酬が企業のコスト構造に対して適切であるかどうかを検討する必要があります。監査報酬が高騰している近年では、費用対効果の観点から変更を検討する企業が増えています。ただし、単に報酬が安いだけでは監査品質を損なう可能性があるため、コストだけでなく、提供されるサービスや監査法人の専門性も慎重に評価することが重要です。

長期的な企業価値への影響を評価

 監査法人の変更が企業の長期的な成長や信頼性にどのような影響を及ぼすかを評価することも必要です。例えば、新しい監査法人が企業の特殊な業界知識を持っていない場合、短期的にはデメリットが発生する可能性があります。一方で、適正な監査を実施することで、不正会計やガバナンスの問題を防ぎ、結果的に市場からの信頼を高めることができます。このように、企業価値への影響を総合的に判断することが求められます。

クライアント満足度の調査

 監査法人変更の判断基準として、現在の監査法人に対する満足度も重要な要素です。企業内部の従業員や経営陣、さらには株主が監査法人の対応に満足しているかを見極めるべきです。不満や不信感が積み重なっている場合、変更を検討する明確な理由となるでしょう。一方で、長年の信頼関係がある場合には変更の必要性を慎重に評価する必要があります。

外部からの独立性を確保する必要性

 監査法人の長期的な利用は、企業と監査法人との癒着や馴れ合いにつながるリスクがあります。このような状況を避けるために、外部からの独立性を意識することが重要です。特に、EUでは監査法人のローテーションが義務付けられているように、一定の期間ごとに監査法人を変更することで、透明性や公正性を保つ取り組みが進んでいます。日本では強制的なローテーションこそ導入されていませんが、独立性を確保するために変更を積極的に検討する企業も増えています。

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あなたの会社はどう判断すべきか

自社の現状を分析する

 監査法人の変更を検討する第一歩は、自社の現状を的確に分析することです。具体的には、現在の監査法人との関係性や現状の監査業務に対する満足度、さらにはその業務が自社の成長や内部統制の強化にどのように貢献しているかを見直す必要があります。また、現在の監査報酬が適正であるかどうかを評価し、自社の財務状況を反映したコストパフォーマンスを確認することも重要です。こうした分析をもとに、監査法人の変更があなたの会社にとってメリットとデメリットのどちらが大きいのかを具体的に考えることが求められます。

経営陣と株主との協議

 監査法人の変更は、企業の運営や信頼性に直接影響を及ぼすため、経営陣および株主との充分な協議が不可欠です。監査法人の変更に伴うメリットやデメリットについて透明性を持って共有し、重要な意思決定を合意のもと進めることが必要です。株主に対しては、監査法人の変更が企業価値にどのような影響を与えるか、長期的な視点で説明することも信頼関係を維持するうえで重要です。

プロフェッショナルな意見を取り入れる

 監査法人の変更には専門的な知見が必要になります。そのため、必要に応じて第三者のプロフェッショナルな意見を取り入れることで、判断の質を高めることができます。たとえば、会計士や監査の専門家、法務部門のアドバイスを仰ぎ、リスクを最小限に抑える方法を模索することが有効です。また、他社の事例や業界のトレンドを参考にしながら、監査法人の変更に伴うリスクを理解し、具体的な解決策や課題への対応を計画することも効果的です。

監査法人変更の時期を見極める

 監査法人を変更する際には、そのタイミングも慎重に検討する必要があります。特に、決算期の直前など、業務が集中する時期に変更を行うと業務負担が増大する可能性があるため注意が必要です。また、監査法人変更後の引継ぎ期間にも焦点を当て、スムーズな移行が可能なスケジュールを設定することが重要です。最適な時期を見極めることで、監査法人変更のデメリットを最小化し、期待するメリットを最大限に引き出すことが可能になります。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)