公認会計士を取り巻く現在の市場動向
空前の売り手市場となった背景
近年、公認会計士の転職市場は空前の売り手市場となっています。この背景には、複雑化・高度化する監査業務に対応するため、監査法人をはじめとする各業界で人材需要が急増していることが挙げられます。特に2021年以降、経済活動の回復とともに採用意欲が高まり、監査業務の担い手として公認会計士が注目を集めています。また、少子化の影響で労働人口全体が減少していることも、売り手市場を後押しする要因となっています。
監査法人の人手不足とその影響
監査法人全体では、慢性的な人手不足が深刻化しています。2023年時点でも、監査法人における人員配置は需要を十分に満たせておらず、業務の負荷が増大している現状があります。この人手不足は、会計基準の改正や企業のガバナンス強化を背景に監査業務の範囲が拡大したことが主因です。そのため、一部の監査法人では業務効率化を図るために、AIやIT技術の導入を進めていますが、それでもなお経験豊富な人材の確保が最重要課題となっています。
採用の変化:中小監査法人の動向
これまで大手監査法人が採用市場を主導してきましたが、最近では中小監査法人の採用活動も活発化しています。特に、人手不足が深刻な中小監査法人では、経験者の中途採用や資格を保有する若手の積極採用に力を入れています。また、大手法人と比較して柔軟な労働条件を提示するケースも増加しており、働き方の多様性を求める求職者にとって魅力的な選択肢となっています。このような採用戦略の変化により、中小監査法人への転職も容易になっている点が注目されています。
転職市場における年齢層とトレンド変化
公認会計士の転職市場では、若年層だけでなく、キャリアを積んだ中高年層の転職活動も活発化しています。かつては30代後半以降の転職は難しいとされていましたが、現在では高年齢層でも十分に転職可能な市場環境が整っています。特に、事業会社での業務経験がある人材が監査法人へ転職するケースや、逆に監査法人から事業会社へ移るケースなど、多様なキャリア形成が見られるようになりました。このように幅広い年齢層が活躍できることが、現在の公認会計士市場の特徴となっています。
公認会計士のキャリアパスの多様性
伝統的な監査業務以外の進路
公認会計士といえば監査業務をイメージする方も多いですが、現在ではそのキャリアの選択肢が多様化しています。特に、アドバイザリー業務やコンサルティング分野への転身が注目されています。例えば、M&Aや企業再編、事業承継に関連する専門知識を活かし、クライアント企業の戦略的な意思決定を支援する役割が求められるようになっています。また、IPO支援や内部統制の強化など、企業成長の過程で必要とされる専門サービスに従事する機会も増加しています。このように、監査法人以外のキャリアパスも広がっており、興味やスキルに応じた道が選べるようになっています。
事業会社やインハウス会計士の需要
事業会社での公認会計士需要が増加している点も大きなトレンドです。特に、多国籍企業や上場企業では、専門的な会計・財務の知識を持つインハウス会計士へのニーズが高まっています。企業内部でIPO準備やグローバル企業に求められるIFRS対応などを担当する場面が増えています。また、経理・財務部門のリーダーシップや戦略的役割を担うことも期待されています。近年では、スタートアップ企業やベンチャー企業でのポジションも注目を集めており、新しい業界や規模の企業でキャリアを広げる公認会計士が増えています。
AIやIT技術の影響で求められるスキル
AIやIT技術の進展によって、会計や監査業務の自動化が進む中、公認会計士にも新たなスキルが求められるようになっています。特にデータ分析やシステム監査など、IT関連の知識が高く評価されるようになっています。一例として、監査業務ではデータ分析ツールを活用した異常検知や精査の効率化が進んでおり、これらを駆使できる人材の重要性が増しています。さらに、サイバーセキュリティやITガバナンスに関連するアドバイザリー業務も注目されており、従来とは異なる専門性が公認会計士のキャリアに組み込まれるようになっています。
中途採用者が注目される理由
公認会計士の転職市場では、中途採用者が大きな注目を集めています。特に、一定の実務経験を持った中途採用者は即戦力として高い需要があります。監査法人では、繁忙期の業務負担軽減や人手不足の解消が課題となっており、即戦力となる人材が歓迎されています。また、事業会社においても、実務経験のある中途採用者は、企業内でのプロセス改善や新規プロジェクト立ち上げの際に重要な役割を担う存在です。さらに、年齢や経験に関わらず売り手市場の状況が続いているため、中途採用者が積極的に採用される背景もあります。
超売り手市場が今後も続く理由
少子化と公認会計士試験合格者の推移
少子化が進行する現代日本では、多くの業界で働き手の確保が喫緊の課題となっています。公認会計士業界も例外ではなく、公認会計士試験の合格者数は増加しているものの、労働人口全体の減少が市場に大きく影響しています。2023年、論文式試験の合格者が1544名を記録しましたが、これにともない会計士登録者数も増加傾向にあります。それでも、監査法人が求める人材数に対しては供給が追いついていない現状です。この状況は引き続き、監査法人が採用競争を続ける大きな要因となっています。
監査法人離れと業界へのインパクト
近年、公認会計士が監査法人を離れて事業会社や他のキャリアに進むケースが増加しています。これは、監査業務以外の多様なキャリアパスが注目を浴びていることが原因です。監査法人の繁忙期における厳しい労働環境や、より柔軟な働き方を求めるトレンドが要因となり、人材流出が進んでいます。この「監査法人離れ」は監査法人内の人手不足を深刻化させ、採用活動の強化が必須となっています。その結果、採用難度が上昇しても、売り手市場が続いている現状に繋がっているのです。
業界全体を支えるトレンドの解析
公認会計士業界全体を支えるトレンドとしては、多様化するキャリアパスや、働き方に対するニーズへの対応が挙げられます。中小監査法人では特に人員不足が顕著であり、条件を緩和して採用を進める動きがみられます。また、準大手監査法人では転職希望者を対象とした多様なキャリアパスの提供が注目されており、転職市場を活性化させています。このような背景から、監査法人は、より広範な層の公認会計士を受け入れる体制へと移行しており、業界全体で売り手市場を支えているといえるでしょう。
売り手市場が崩れる可能性はあるのか?
現在の売り手市場が崩れる可能性は極めて低いと考えられます。少子化による労働人口の減少に加え、公認会計士試験の合格者数が急増する見込みが限定的であるため、資格保有者の需要・供給バランスが大きく変化することは予想されていません。しかし、監査法人が採用体制を抜本的に見直し、IT技術の導入が進むことで一部業務が自動化されれば、将来的に人手不足が緩和される可能性も示唆されています。とはいえ、現時点では監査法人の労働力需要を支える対策が急務であり、売り手市場は当面続くと見られています。
公認会計士市場の未来と戦略
持続的なキャリア構築のポイント
公認会計士として持続的にキャリアを構築するためには、市場の動向を的確に読み取ることが重要です。現在の売り手市場においては、監査法人をはじめとする採用市場のニーズに応じたスキルや知識のアップデートが求められています。また、専門性を高めつつも、広範な知識を身につけることで多様なキャリア選択肢を確保することが可能になります。例えば、監査業務だけでなく、コンサルティング業務や事業会社での財務戦略の支援といった分野でも活躍できるスキルを磨くことで、長期にわたって安定したキャリアを築くことができます。
転職市場での優位性を保つ方法
転職市場での優位性を保つためには、業界内でのトレンドを把握しつつ、需要のある分野での経験を積むことがポイントです。例えば、現在の売り手市場では中小監査法人が人手不足により積極的な採用を行っており、転職希望者にとっては条件のよい採用機会が生まれています。また、技術の進化に対応するため、AIやITスキルなどの新しいスキルを学ぶことも重要です。繁忙期を避けた1月から4月の転職希望者が増加する傾向を考慮し、タイミングを計った転職活動を行うことで、より多くの選択肢を得ることができます。
監査法人以外で活躍するための準備
公認会計士として監査法人以外で活躍するためには、事業会社やインハウス会計士としての経験を意識した準備が必要です。これには、財務や経営戦略を支援するスキルや、異なる業界特有の会計ルールに関する知識が含まれます。さらに、近年ではスタートアップ企業や外資系企業での求人も増加しており、特に柔軟な働き方を希望する人にとって魅力的な選択肢となっています。これらのポジションへ移行する際には、自身の監査経験をどのように企業の成長に結びつけられるかを明確に示すことが重要です。
グローバル市場での活躍に向けた視点
グローバル市場での活躍を目指す場合、公認会計士には国際的な視野と対応力が必要となります。まず、国際会計基準(IFRS)や国際監査基準(ISA)に関する深い知識を習得することが不可欠です。また、英語力を含むコミュニケーション能力が求められるため、語学スキルの向上にも取り組むべきです。さらに、グローバル展開を進める監査法人や外資系企業で経験を積むことにより、国際的なスキルが磨かれ、将来的なキャリアの幅を広げることができます。