監査業界の未来を探る!2024年度四大監査法人の業績と課題

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第1章:2024年度の四大監査法人経営概況

四大監査法人の売上高と純利益の動向

 2023年6月期の決算情報によると、四大監査法人の売上高は前年と比較して全体的に増加傾向にあるものの、成長率や内訳には差が見られます。トーマツは1,428億円とトップの売上高を誇り、監査業務と非監査業務の両面で収益を伸ばしましたが、非監査業務が特に好調でした。あずさ監査法人は1,117億円で、それに続くものの、成長率が1%とやや鈍化しています。一方、EY新日本は1,095億円の売上高を記録し、監査業務の収益が群を抜いています。PwCあらたは610億円と最も小規模ながらも、非監査業務による成長が8%と突出している点が特筆されます。

人材・IT投資がもたらした影響

 四大監査法人では人材確保とITへの積極的な投資が進んでおり、業績の成長に寄与しています。例えば、デジタル技術を用いたリモート監査の導入は、監査業務の効率化を進める一方で、新たなスキルを持つ人材の需要も拡大させています。公認会計士試験の合格者数が増加していることは好材料ですが、人材流出や四大監査法人離れが課題となっており、今後の戦略が注目されます。

法人別の成長率と市場シェア分析

 2023年度の売上高増加率を見ると、PwCあらたが8%と最も高く、小規模ながらも成長率で他法人を上回りました。一方で、トーマツとEY新日本は共に3%の成長率を記録し、安定的な増収を実現しています。あずさ監査法人は1%の成長にとどまり、特に非監査業務収益の伸びが他法人と比較して鈍化している点が課題とされています。一連の動向を総括すると、四大監査法人全体での市場シェアは維持されていますが、法人ごとに異なる戦略がその差を広げています。

競争相手と監査法人のポジショニング

 四大監査法人の市場競争において、中堅・中小監査法人が影響を強めつつあります。特に、会計監査人交代の流れが中小法人へのシフトを後押しし、単価の低い監査業務を中心とした競争が激化しています。一方で、四大監査法人は高単価な監査案件を継続的に確保しつつ、非監査業務による収益拡大を目指しています。規模や専門性を武器に、四大法人はそれぞれの強みを活かしたポジショニング戦略を展開しています。

各法人のクライアント構成と特徴

 クライアント構成については、法人ごとの特徴が鮮明です。トーマツとEY新日本は依然として監査業務におけるクライアント数が多い一方で、PwCあらたは非監査業務に強みを持ち、クライアントの業種多様性を高めています。あずさ監査法人は中規模企業を中心に監査業務を安定的に担う傾向が見られます。また、非監査サービスにおいては、各法人がテクノロジーやコンサルティング分野で独自のアプローチを取り、クライアントニーズの変化に適応する努力を行っています。

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第2章:非監査業務の成長と課題

非監査業務の売上高比較

 非監査業務における四大監査法人の売上高を比較すると、2023年度には有限責任監査法人トーマツが535億円で最大の収益を記録しました。一方で、あずさ監査法人は242億円、EY新日本有限責任監査法人は170億円、PwCあらた有限責任監査法人は313億円と、各法人において規模や収益構造に差が見られます。特にトーマツとPwCあらたは、非監査業務の成長率がそれぞれ3%と8%を記録し、安定的な増加傾向を示しています。このような業績差は、提供されるサービスの多様性や既存クライアントからの非監査業務需要の増大によるものと考えられます。

非監査業務における競争優位性

 非監査業務の分野では、各監査法人が異なる競争優位性を持っています。例えば、トーマツはデジタル変革支援やリスクコンサルティングをはじめ、IT関連のサービス提供を強化しています。また、PwCあらたはクロスボーダー案件に強みを持ち、外資系クライアントのニーズに対応する姿勢が他法人との差別化要因となっています。一方で、あずさとEY新日本は、既存クライアントを中心とした安定的な非監査業務の提供が特徴ですが、これにより新規分野への投資が限定的となるリスクも存在しています。

会計業務以外のサービス展開動向

 非監査業務における成長の鍵を握るのは、従来の監査業務を超えたサービスの充実です。近年、四大監査法人はサステナビリティ関連サービスや、ESG(環境・社会・ガバナンス)監査、リスク管理に関するアドバイザリー業務などを積極的に展開しています。例えば、トーマツではサプライチェーンにおけるリスクマネジメントが注目され、一方でPwCあらたはAIやデータ分析を活用した高度な問題解決能力が評価されています。これにより、クライアントの幅広いニーズに応える体制が整っています。

顧客ニーズの複雑化と法規制の影響

 非監査業務の拡大に伴い、顧客ニーズの複雑化が顕著になっています。例えば、近年の多国籍企業では、ESG監査やデジタルトランスフォーメーションプロジェクトへの対応が求められています。一方で、法規制の強化も業務に影響を及ぼしています。日本国内では、非監査業務と監査業務の利益相反リスクが厳密に監視されるようになり、事業範囲を制限されるケースも見られます。これらの要因に対応しつつ、効率的かつ高度なサービス提供を継続することが四大監査法人の大きな課題となっています。

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第3章:監査法人が直面する主要課題

人材不足と公認会計士の育成

 監査法人業界は、慢性的な人材不足に直面しています。公認会計士試験の合格者数は増加しているものの、四大監査法人への就職離れが進んでおり、特に若手世代の採用と定着に課題があります。この問題は、長時間労働や業務負荷が原因とされ、多様な働き方へのニーズが高まっている現在の就業環境に適応することが求められています。また、急速に進むデジタル化に対応するための専門知識を持つ人材の育成も急務です。四大監査法人は、AIやデータ解析を活用した監査手法の提供に力を入れており、そのためのITスキルを持つ公認会計士の採用と育成が重要な戦略となっています。

監査報酬の変化とその持続可能性

 監査報酬の平均単価が上昇傾向にある中で、その持続可能性が議論されています。監査業務のゴールドスタンダードを維持するための人件費増加やデジタルインフラへの投資が、報酬の引き上げ要因となっています。しかし、顧客からのコスト削減圧力や監査法人間の競争激化により、報酬水準の維持が難しい状況も見受けられます。特に、大手クライアントを抱える四大監査法人は、監査報酬の適正化を図る一方で、収益性を高めるために非監査業務の拡大を進めています。持続可能なビジネスモデルの確立が、今後の重要なテーマとなると考えられます。

ITリスク管理に関連する課題

 デジタル技術の活用が進むのと同時に、監査法人におけるITリスク管理の重要性が高まっています。急速なIT環境の変化に対し、効果的な内部統制を構築・維持することが求められており、これには高い技術力と専門性が必要です。四大監査法人は、AIやブロックチェーン技術を活用した監査プロセスの効率化を進めると同時に、これらに関連するサイバーセキュリティリスクにも対処する必要があります。また、リモート監査が定着する中で、データ流出のリスクを最小限に抑える取り組みも求められています。こうした課題に対応するためには、体制の柔軟性と継続的な投資が不可欠です。

激化する競争環境への対応戦略

 四大監査法人は、国内外の中小監査法人やコンサルティング会社との競争が激化するなか、市場での優位性を維持するためにさまざまな戦略を展開しています。この中には、非監査業務の拡大や特定業界への対応力強化が含まれています。さらに、国内外のクライアントからの多様なニーズに応えるため、グローバルなネットワークを活用した調査・提案能力を強化しています。しかし、中小監査法人が価格競争でシェアを拡大していることから、四大監査法人もコスト構造の見直しを進めています。将来的には、技術力と専門性を生かしたサービスの差別化が、競争環境を乗り越える鍵となるでしょう。

規制強化の影響と将来の施策

 近年、国内外で会計・監査基準の改正や監査法人に対する規制強化が進んでおり、これが監査法人業務に大きな影響を及ぼしています。特に、監査の透明性やガバナンスの強化が求められる一方で、クライアントとの独立性を徹底する努力が求められています。このような規制強化に対応するため、四大監査法人は内部体制の見直しや監査プロセスの再構築を進めています。また、AIやブロックチェーン技術の活用といった先進的な手法を取り入れつつ、規制基準に適応した業務フローを作り上げることが今後の成長にとって重要です。

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第4章:監査業界の今後の見通し

AIやブロックチェーンの活用拡大

 監査業界では、AI(人工知能)やブロックチェーン技術の活用が加速しています。これらの技術は監査業務の効率化や正確性の向上に大きく寄与しています。特にAIは、大量のデータを解析することで不正検知やパターン認識の精度を高め、監査の質をさらに向上させています。一方で、ブロックチェーンは、取引記録が分散的かつ不変である特性を活かし、監査証拠としての信頼性を向上させることが期待されています。このような技術革新は、四大監査法人をはじめとする大手監査法人の業績向上に寄与する一方、中小監査法人にとっても競争力を維持するための重要な要素になりつつあります。

監査法人のグローバル化とその課題

 四大監査法人は、近年ますますグローバル化を推進しています。グローバル企業を対象とした監査サービスの需要が高まっており、それに対応するため国際的なネットワーク構築が重要になっています。しかし、グローバル化によって、各国で異なる規制や会計基準に対応するための負担が増加するという課題も見えています。また、人材確保も大きな課題となっており、特に多言語対応が可能な公認会計士の育成が求められています。このような課題を克服するため、四大監査法人を中心に、IT化や標準化の推進が進められています。

中堅・中小監査法人との差別化要因

 監査法人間の競争が激化する中、四大監査法人は中堅・中小監査法人との差別化を重要視しています。特に高度なIT技術を用いた監査サービスの提供や、グローバルネットワークを活用した付加価値型のサービス展開が差別化要素として挙げられます。一方、中小監査法人は地元企業への密着型サービスやコストを抑えたサービス提供によって独自の市場を開拓しています。それでも、ITへの投資や多様なサービス分野への対応における資金力の差は依然として大きく、四大監査法人が引き続き市場シェアを占める状況が続いています。

サステナビリティ指標とESG監査の役割

 サステナビリティとESG(環境・社会・ガバナンス)は、近年監査業界でも重要なテーマとして注目されています。多くの企業がESG情報の開示を求められる中、監査法人はこれらの情報の信頼性を保証する役割を担っています。特にESG監査に対応するための専門知識や測定手法、基準が整備されつつあります。四大監査法人では、サステナビリティ領域への投資を拡大し、新たな収益源としての可能性を模索しています。この分野で先行することは、今後の業績向上にとって重要な要素と言えるでしょう。

監査業界の2030年ビジョン

 監査業界は2030年に向けてさらなる変革が進むことが予想されます。AIやブロックチェーンを活用した完全自動化監査の実現や、サステナビリティに関する監査の標準化が大きなテーマとなるでしょう。また、監査法人全体として、監査証拠の信頼性とスピードを両立させたサービス提供を目指していくと考えられます。しかし同時に、技術進展が進む中で、人間の判断力や倫理観に基づいた監査の価値をいかに発揮するかも重要な課題です。四大監査法人は、グローバル市場の中でリーダーシップを発揮しつつ、このような課題に対応した新たなビジョンを掲げていくことが求められるでしょう。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)