監査法人でのリモートワークの現状
リモートワークが進んだ背景:パンデミックの影響
リモートワークが監査法人で本格的に進むようになった背景には、新型コロナウイルス感染症が大きく影響しています。2019年12月に発症したウイルスは、2020年2月頃から世界的流行を見せ、日本でも4月に緊急事態宣言が発出されました。この期間中、多くの企業が在宅勤務を導入し、監査法人も例外ではありませんでした。リモートワークへのシフトは、従業員の健康を守るとともに業務を継続するための必要な選択肢となりました。
2020年以降、企業全体で働き方の変革が進みましたが、日経新聞の調査によると、2021年には63%の企業が在宅勤務を継続すると回答しています。この傾向は監査法人でも同様で、クライアントとの業務内容を見直しながらリモートでの監査業務が推進されました。特に、新型コロナウイルスが5類に移行した2023年以降も、これまでのリモートワーク体制が受け継がれる企業が多いようです。
リモートワーク導入率と企業ごとの差異
監査法人におけるリモートワークの導入率には、企業ごとに差異が見られます。2023年のテレワーク実施率全体は14.6%で、東京都限定では29.8%とされていますが、監査法人では比較的高いリモート率が維持されている傾向があります。特に、大手監査法人ではリモートワークの環境整備が進んでおり、リモートメインで業務を行う従業員が増加しています。
一方で、中小規模の監査法人ではリモートワークの導入に遅れが見られるケースもあります。理由として、人員やIT環境の整備不足が挙げられます。同じ監査業務であっても、企業規模やクライアントの業務内容によってリモートワークのしやすさが異なるため、柔軟に対応する姿勢が求められています。
大手監査法人(BIG4)での具体的な取り組み
BIG4と呼ばれる大手監査法人(PwC、KPMG、EY、Deloitte)は、新型コロナウイルスのパンデミック以降、いち早くリモートワークの体制を整えました。特に、PwC Japanグループが新たに設立した大手町のオフィスは「ニューノーマル時代の働き方」を意識した設計となり、リモートワークとオフィス勤務を効果的に組み合わせたハイブリッドな働き方を実現する場を提供しています。
また、多くの大手監査法人はGoogle WorkspaceやMicrosoft Teamsなどのツールを積極的に活用し、効率的なリモート会議やクライアントとのコミュニケーションを支援しています。これにより、現場への訪問が必要な場合でも、業務の一部をリモートでこなせるようになりました。
中小監査法人におけるリモートワークの導入状況
中小規模の監査法人においても、リモートワークを試行的に導入する動きが見られるものの、その体制や実施規模は大手監査法人と比べるとバラつきがあります。特に、人員やIT環境のリソースが限られており、全員がリモート勤務を行うのは難しいという現実があります。しかし、一部の業務については、テレワークとオフィスワークを併用する形で対応しており、リモートワークのメリットを享受する努力が見られます。
また、中小監査法人においては、従業員が自律的に仕事を進められるスキルや適応力が求められます。特に、リモートワークが適用される業務内容としてデータ分析やチェック業務が挙げられるため、業務プロセス全体を通じてリモートを導入するには課題が残ります。それでも、リモートワーク環境整備を進めることで、柔軟な働き方を実現するための一歩を踏み出している企業は少なくありません。
リモートワークのメリットとデメリット
業務効率化と柔軟な働き方によるメリット
監査法人においてリモートワークが導入されたことで、さまざまなメリットが生じました。その中でも特に注目されるのが業務効率化です。リモートワークにより通勤時間の削減が実現し、これまで通勤に費やしていた時間を業務や自己啓発に充てることができるようになりました。また、監査業務では複数のクライアントを担当することが一般的ですが、リモート環境により物理的な移動が不要になる場面が増え、効率的にクライアント対応が可能となっています。
さらに、柔軟な働き方が可能となった点も大きなメリットです。個々の状況に応じて自分のタイミングで働けるため、家庭と仕事を両立しやすくなり、働き方の選択肢が広がりました。このような変化は、特に公認会計士のような専門職の人材確保にも良い影響を与えています。
リモート環境での監査業務の具体例
監査法人ではリモートワークを活用し、さまざまな業務が実施されています。例えば、クライアントからデジタル化された資料をオンラインで受け取り、それを基に監査手続きを行うケースが増加しています。ZoomやMicrosoft Teamsを活用したオンライン会議も一般的になり、クライアントとのやり取りやチーム間の相談がスムーズに実施されています。
また、クラウドベースの監査ツールや会計ソフトを利用することで、リアルタイムでデータを共有・確認できる環境が整っています。このように、リモート環境における監査業務はテクノロジーの活用を前提とする形で進化しています。
コミュニケーション不足とリモート特有の課題
一方で、リモートワークには課題もあります。その中でも特に指摘されているのが、コミュニケーション不足の問題です。オフィスで顔を合わせて業務を進めていた時と比べ、オンラインでは細かなニュアンスや感情を汲み取りにくくなることがあります。これにより、チーム内の連携に影響が生じたり、誤解が生まれるケースも少なくありません。
また、リモート作業には自己管理能力が求められるため、オンとオフの切り替えが難しいという課題も存在します。特にリモート率が高い環境では、長時間労働や集中力の低下といった問題が起こりやすくなるため、適切な勤務時間管理が必要です。
テレワーク導入で新たに必要なスキル・ツール
監査法人でリモートワークを行うためには、新たなスキルやツールの活用が求められます。特に重要とされるのが、オンラインコミュニケーションスキルです。リモート環境においては、短時間で的確に情報を共有し、チームメンバーやクライアントと円滑に協力するスキルが求められます。また、メールやチャットツールを活用したコミュニケーション能力がこれまで以上に重要視されています。
さらに、リモートワークを支えるツールとして、会議システムやクラウドベースのドキュメント管理ツールの利用が一般化しています。これにより、リモートでもリアルタイムにデータを共有し、業務を進めることができる環境の整備が欠かせません。監査法人のリモート率が高まる中、これらのツールを使いこなす能力が、今後の働き方において大きな役割を果たすでしょう。
監査法人でのリモートワークのハイブリッド化
オフィスワークとリモートワークの併用モデル
監査法人では、多くの企業がオフィスワークとリモートワークを効果的に組み合わせた「ハイブリッド勤務モデル」を採用しています。このモデルは、新型コロナウイルス感染症の影響を経て定着した働き方の一つです。例えば、クライアント先での作業や対面が必要な業務についてはオフィスや現地訪問を基本とし、それ以外の資料確認や事務作業はリモートで行うといった柔軟な運用が一般的です。
2021年時点で企業の在宅勤務率は63%と報じられましたが、2023年現在、監査法人でもリモート率が一定水準で保たれています。一方で、実務効率やチーム全体での協働を考慮して、完全にリモートワークに切り替えることが難しい場合もあります。特にオンサイトでの監査が必要な場合など、状況に応じた働き方が求められます。
クライアントとのコミュニケーションの工夫
ハイブリッド勤務を効果的に運用するためには、クライアントとのコミュニケーションの方法が重要です。監査法人では、Google Workspaceなどのクラウドツールやオンライン会議システムを活用し、リモート環境でも円滑な会話と情報共有を実現しています。また、あらかじめ訪問日やオンライン会議の日程を調整し、重要なヒアリングや資料確認をスムーズに進める取り組みも一般的です。
特に近年では、監査作業用のデータ共有システムを導入することで、クライアントから必要な情報をリモートで一括管理できる仕組みが普及しています。これにより、移動時間の削減や業務効率化が図られつつあります。
産休・育休など働き方支援との連携
リモートワークを効果的に活用することで、産休・育休中の社員がスムーズに復職できる制度設計も進められています。監査法人では、育児や介護をしながら働く人にリモート業務を取り入れることで、無理なく仕事とプライベートを両立できる環境を提供しています。
具体的には、通勤の負担を軽減するだけでなく、自宅での作業を可能にすることで、近隣の保育施設の利用や、急な家庭の事情にも対応できる柔軟性が評価されています。これにより、従業員の離職防止や働き手の潜在的な能力を引き出すことにもつながっています。
ハイブリッド勤務の成功事例と課題
ハイブリッド勤務が成功した事例として、大手監査法人が多様な働き方を支援する専用オフィスやツールを導入した取り組みが挙げられます。例えば、PwC Japanグループが設立した新オフィスでは、オフィスワークもリモートも快適に行える環境が整備されています。このように利用しやすい職場環境を整えることで、社員の生産性が向上し、業務効率が上がるという結果が出ています。
一方で、課題も存在します。リモート環境では、対面でのコミュニケーションが減少するため、意思疎通が不十分になる可能性があります。また、現地での監査作業が必要なケースで予定変更が頻発する場合、リモートワークを効果的に運用するのが難しいこともあります。そのため、業務内容に応じた適切な勤務形態を模索することが引き続き重要です。
監査法人のリモートワーク事情の未来
完全在宅勤務はスタンダードとなるのか?
完全在宅勤務が今後スタンダードとなるかどうかは、多くの監査法人で関心を寄せているテーマです。新型コロナウイルスの影響で一気に拡大したリモートワークですが、2023年現在、監査法人のリモート率はほぼ横ばいの状況となっています。それでも、多くの企業が在宅勤務を継続する方針を示しており、監査法人でも一部の業務が引き続きリモートで行われています。また、完全在宅勤務が可能なケースとしては、クライアント先で直接の確認作業が求められない業務や、データ解析に特化した業務が挙げられます。今後の課題としては、完全在宅型の働き方に対応した効率的なコミュニケーションの構築や、公認会計士のスキルアップ支援による環境整備が必要になります。
テクノロジー進化による働き方の可能性
テクノロジーの進化により、監査法人の働き方はさらに柔軟化すると予測されています。たとえば、AIやクラウドベースの監査ツールの普及により、従業員がどこにいても高度な分析や監査業務を行うことが可能となります。実際に、一部の大手監査法人では、Google Workspaceやビデオ会議システムを活用して業務の効率化を図っています。また、リアルタイムでのデータ共有や、監査手続きの自動化を支える技術の導入により、リモートワーク環境が一段と進化しています。これにより、地域を超えたスキルの分散や、遠方に住む優秀な人材の採用が進むことが期待されます。
リモートワーク支援策による人材確保の影響
リモートワーク支援策を積極的に導入する企業は、優秀な人材を確保する上での大きなアドバンテージを得ています。監査法人においても、柔軟な働き方を提案することは、人材確保の競争力を高めるポイントとなっています。近年、公認会計士や監査担当者を目指す人々の間で、「リモートワークが可能か?」という質問が増加しており、働き方の多様性が求められている状況です。一方、リモート率が低い企業では優秀な人材の流出が懸念されており、労働環境の整備が急務です。さらに、リモート環境下での育成プログラムやオンライン研修の充実も、今後の人材戦略において重要な要素となるでしょう。
リモート時代を見据えたキャリア形成への影響
リモートワーク時代におけるキャリア形成は、新たな方向性を持つことが求められます。完全在宅勤務やハイブリッド勤務が一般化する中で、従業員は自己管理能力の向上や、デジタルツールを活用するスキルが一層重要になります。また、コミュニケーションスキルやオンラインでのプレゼン能力など、非対面でも円滑に業務を遂行できる能力の育成が鍵を握ります。さらに、リモート勤務が通勤時間の削減や仕事の柔軟性を提供する一方で、経験の浅い従業員にとってスキル習得の機会が減るリスクも考えられます。そのため、監査法人ではメンター制や定期的なオンラインセミナーなど、キャリア形成を支援する仕組み作りがますます重要となっています。