「監査法人のガバナンス・コード」とは?知られざるその本質と影響力

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監査法人のガバナンス・コードとは何か

背景と制定の目的

 監査法人のガバナンス・コードは、平成29年3月に公表された「監査法人の組織的な運営に関する原則」を指し、会計監査における信頼性の向上と資本市場の公正性確保を目的としています。制定の背景には、いくつかの大規模な会計不祥事や監査品質のばらつきがあり、その反省から監査法人の組織運営を強化し、外部からの信頼を得る必要性が指摘されました。

 このコードは、監査法人が会計監査を通じて発揮するべき公益性を再確認し、そのための透明性や説明責任を強化する道筋を示しています。金融庁が主導し、学識経験者や専門家で構成された検討会を経て策定されました。

ガバナンス・コードの基本構成

 監査法人のガバナンス・コードは、5つの基本原則と24の指針から構成されています。それぞれの原則は監査法人の組織運営と監査品質の維持を支えるものであり、具体的には、社員や職員の能力を最大限に発揮させる仕組みや、経営陣から独立した監査機能の構築などが含まれています。

 特徴的なのは、各監査法人がこれらの原則を自発的に採用し、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守または説明)」方式に基づき、その実効性を維持する運用方法です。これにより、監査法人ごとの状況に応じた柔軟な組織運営が可能となります。

会計監査の役割とガバナンス・コードの関連性

 会計監査は、企業の財務情報の正確性を保証し、投資家やステークホルダーの信頼を支える重要な役割を果たしています。監査法人のガバナンス・コードは、この役割をさらに強化するための枠組みとして設けられており、組織全体の透明性や説明責任を高めることを目的としています。

 また、ガバナンス・コードは、監査法人内部の意思決定プロセスや業務実施過程を改善し、監査の品質を一層向上させるものです。これにより、企業の財務情報に対する信頼がより一層確保される仕組みになっています。

国際的な枠組みとの比較

 監査法人のガバナンス・コードは、国際的な監査基準やガバナンス規範とも関連を持っています。特に、欧州の「監査品質指針」や国際監査基準(ISAs)などに見られる監査法人の透明性向上策と、その目的が一致しています。

 一方で、日本のガバナンス・コードは、各監査法人の自主性を尊重しつつ、現地の法制度や規制環境に適合させた柔軟な運用が特徴です。この点で、グローバル基準と同時に国内の実情を踏まえた現実的な運用が可能となっています。

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改訂されたガバナンス・コードの特徴

2023年改訂の主なポイント

 2023年に改訂された「監査法人のガバナンス・コード」は、監査法人の透明性と信頼性をさらに向上させるための新たな方向性が示されています。この改訂では、特に監査法人が公益的な役割を果たすための持続可能な体制構築が重視されました。例えば、経営陣の独立性確保や監査品質向上のための具体的な措置が盛り込まれ、監査の実効性を確保するために一層の努力を求めています。また、コンプライ・オア・エクスプレイン方式を基本としつつも、より分かりやすい情報開示が求められるようになった点も特徴的です。

監査品質向上への新たなアプローチ

 改訂されたガバナンス・コードでは、監査品質の向上が主要な目標の一つとされています。この点で、監査法人の内部組織体制の改善や、社員・職員のスキルアップが重視されています。例えば、監査の実務を支える職員の専門的能力を十分に発揮させるための教育プログラムやトレーニングの充実が挙げられます。また、品質に関するモニタリング体制を強化することで、監査プロセス全体の一貫性を確保する取り組みが採用されています。これにより、ガバナンスレベルの底上げが期待されています。

第三者の知見活用とその影響

 改訂版では、第三者の知見を活用することの意義が強調されています。具体的には、外部有識者や企業のステークホルダーからの意見を取り入れた監査法人運営の透明性強化を目指しています。このアプローチは、監査法人の意思決定プロセスに多様な視点を加えることで、偏りのない判断を促進し、監査品質の信頼性を高める効果があります。また、第三者の意見を取り入れることで、監査法人内部だけでなく企業全体のガバナンス向上にも寄与することが期待されています。

小規模な監査法人への適用範囲

 今回の改訂では、小規模な監査法人に対する適用範囲についても配慮がなされています。適用の柔軟性が考慮されており、資本や人員の規模に応じた対応が許容されるよう調整されています。特に、小規模監査法人が抱えるリソース不足などの課題をふまえ、段階的な対応が可能となるような仕組みが盛り込まれています。この配慮は、中堅・中小規模の監査法人が持続可能な組織運営を行いながらも、一定のガバナンス基準を確保するために重要な施策と言えます。

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監査法人と企業に与える影響

企業の透明性向上への貢献

 監査法人のガバナンス・コードは、企業の透明性向上に大きく貢献しています。監査法人は、会計監査を通じて企業の財務情報の信頼性を確保する役割を担っており、ガバナンス・コードの導入はその役割をさらに強化するものです。このコードに基づき、監査法人が組織内での透明性や説明責任を明確化することで、企業もまた、その活動や財務情報の開示において高い透明性を求められるようになります。これにより、企業と投資家の間での信頼が深まり、資本市場全体の健全性が向上するという効果が期待されています。

内部統制やガバナンスの再強化

 ガバナンス・コードは、企業における内部統制やガバナンス体制を再強化するきっかけともなっています。監査法人がこのコードを遵守することで、監査プロセスの品質向上が期待され、結果的に企業の内部統制の仕組みや業務遂行の透明性が高まります。また、監査プロセスを通じて得られる改善提言は、経営陣がガバナンス体制を再評価し、実効性を向上させるための貴重な指針として活用されます。このように、監査法人と企業の連携を通じ、より強固なガバナンス基盤が確立されていきます。

公認会計士や従業員への影響

 監査法人のガバナンス・コードは、公認会計士や従業員にも影響を与えています。ガバナンス体制の強化により、監査法人内での教育やトレーニングの機会が増加し、職員一人ひとりの能力開発に繋がっています。また、監査の透明性が重視されることで、職員はさらに高い倫理基準や職業意識を持って業務にあたる必要があり、これが組織全体の監査品質向上に結び付いています。一方で、新しい指針や原則への対応を求められることにより、現場での負担増加が懸念される側面もありますが、これを補うためのサポート体制の充実が進められています。

企業と投資家の信頼回復に向けた役割

 監査法人のガバナンス・コードは、企業と投資家の信頼関係を回復し、さらに強化するために重要な役割を果たします。不正会計や財務報告の透明性不足といった過去の問題が、企業と投資家の間に溝を生じさせてきました。しかし、監査法人がガバナンス・コードの策定に基づき透明性や監査品質を向上させることで、企業の信頼性が高まり、投資家の安心感が確保されます。このように、監査法人が中心となって信頼環境を整備することで、企業と投資家の健全な関係を築く土壌が形成されます。

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今後の課題と展望

多様化する企業環境への対応策

 監査法人のガバナンスコードは、企業環境の多様化に対応するための指針として重要な役割を果たしています。グローバル化やデジタル化の進展により、企業が直面する課題はますます複雑化しています。例えば、新しいビジネスモデルやテクノロジーの発展に伴うリスクの変化への対応が求められています。このような状況下で、監査法人は、適切な内部統制の構築や効果的な監査手法の導入を通じて、企業の変化に柔軟に対応していく必要があります。また、監査法人は、クライアント企業とのコミュニケーションを強化し、その特有のニーズを理解する努力も重要となります。

グローバル基準への更なる調和

 監査法人のガバナンスコードは、国際基準との調和を図りつつ、その独自性を維持することを目指しています。現在、国際的な監査基準やガバナンス規範は、監査法人や企業の透明性と信頼性を高めるための重要な枠組みとして機能しています。これらの基準に整合性を持たせることで、監査法人がグローバル市場で活動する日本企業を適切にサポートすることが可能になります。一方で、日本独自の経済や法制度を踏まえた施策を同時に進めることが大切です。これには、国際的な情報共有や専門的な知識の交換も含まれ、持続的な改善が期待されています。

中小監査法人への支援策

 中小監査法人がガバナンスコードを適切に導入するには、実効的な支援策の構築が欠かせません。大規模な監査法人と比較して、リソースや専門人材が限られている中小監査法人にとって、ガバナンスの実効性を確保するのは課題を伴います。そのため、政府や関連機関が、教育プログラムや専門家によるコンサルティングを提供するなどのサポートが求められています。また、他の監査法人との協業や情報共有を通じて、ベストプラクティスを学び、社内改善に活用する姿勢が必要です。これらの支援により、中小監査法人の競争力と信頼性を高めることが期待されます。

長期的視野に立ったメリットの促進

 監査法人のガバナンスコードを長期的に活用することで、組織全体としてのメリットをあらためて促進することが重要です。具体的には、組織の透明性や倫理基準の向上が挙げられます。これは、監査法人だけでなく、クライアント企業や投資家との信頼関係を構築する基盤にもなります。また、コンプライ・オア・エクスプレイン方式を基に各法人が独自のアプローチを採用し、継続的な改善を実施できる環境を整備することもポイントです。このような努力が、監査法人全体の信用力を向上させ、資本市場の健全な発展に貢献することにつながります。

この記事を書いた人

コトラ(広報チーム)