システミック・リスク (Systemic Risk)
システミック・リスクは個々の企業やグループのリスクと対比して用いられる用語で、一つの金融機関の決済能力低下の影響が他の金融機関にも連鎖的に波及し、金融システム全体の機能が失われてしまうリスクのことをいう。金利、景気後退、戦争のように、リスク分散によって除き切れない市場全体が影響を受けるリスクのことをいう場合もある。
システミック・リスクは金融システムに関わるすべての関係者が発生原因の一端を担う可能性のあるものであるから、それを監督する側の個別の政策間の連携が重要であり、包括的に取り組まれるべき課題である。
ドッド=フランク法(ウォール街改革および消費者保護法)
ドッド=フランク法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act、ウォール街改革および消費者保護法)
2010年7月、オバマ大統領の署名により成立した米国の金融規制改革法。上院銀行委員長のクリストファー・ドッドと下院金融サービス委員長のバーニー・フランクの二名の姓を取って通称される。ドッド=フランク法は、1920年代の米国で金融的投機がもたらした世界金融不安および大恐慌の発生を根絶するため成立したグラス=スティーガル法の現代版である。
『金融機関の説明責任と透明性を向上させることで米国の金融安定性を促進し、「トゥービッグ・トゥーフェイル」を終わらせ、納税者のため特定の企業への財政出動を終わらせ、新たな金融危機を防止するための堅固な経済基盤を創出する』ことを目的として冒頭に掲げている。
具体的な内容としては消費者金融保護局をFRBの中に置くこと、ボルカー・ルール、システム上重要な金融機関(SIFIs)の監視の強化、連銀法の修正などである。
ボルカー・ルール (Volcker Rule)
銀行が預金を元手に投機的投資を行うことを禁止する、ドッド=フランク法の中の一条項。商業銀行による自己勘定取引と、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドへの出資を禁止する。
影の金融システム (Shadow Banking System)
個人や企業から預かった預金を資金として個人や企業へ貸出を行う伝統的な銀行システムに対し、租税回避のためのオフショア取引やデリバティブなどのオフバランス取引のことをいう。オフショア取引やオフバランス取引は財務諸表上の開示が詳らかでなく、実態が見えないため同種の取引が1つ危機的状況に陥ると全ての取引に不安が広がり、システム全体の危機へと繋がる可能性をはらんでいる。2007年夏のサププライム・ショック以降、米国発の国際金融危機の元凶の1つといわれている。
SIFIs (システム上重要な金融機関)
SIFIs(Systemically Important Financial Institutions:システム上重要な金融機関)
ドッド=フランク法によって規制される、全国的な金融システムに大きな影響力を持つと考えられる米国の金融機関のこと。2007年のサブプライム・ショック、2008年のリーマン・ショックに代表されるような世界的な金融危機によるシステミック・リスクに対処する観点から定められた。
SIFIsの規制のためには3ティアシステムが提案されている。ティア1は、大規模な、複数の州に渡って営業する銀行や保険会社のようなリスクの大きい金融機関。ティア2は、比較的大規模な地域銀行のような中程度の複雑さをもつ金融機関。そしてティア3は、地域内銀行のような複雑さのない金融機関を分類する。それぞれの階層に属する金融機関は、それぞれ異なる程度の監督及び規制を受ける。
「大きくてつぶせない」金融機関は、有事の際の政府支援などをあてにしてモラルハザードを起こし、過度のリスクテイクを行ってきたと考えられている。その予防策として、過度なリスクテイクに対する直接的な規制を検討する議論と、組織解体や破たん処理計画の準備など「大きくてつぶせない」実態を変革しようという議論が進んでいる。これらの議論で規制対象として想定されるのがSIFIsである。
G-SIFIs (世界の金融システムで重要な金融機関)
G-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions、世界の金融システムで重要な金融機関)
世界の国際金融システムにおいて重要な金融機関のこと。経営危機に陥ってしまうと世界中の金融システムに影響が及ぶ恐れのある、国際的で大規模な金融機関のことを指す。
各国の金融監督当局で構成するFSBは、このG-SIFIsを具体的に決定し、それに対する自己資本の上乗せ規制などを設定する。G-SIFIsは総資産規模、他の金融機関との取引実態、破綻時に他の金融機関で代替できるかといった観点から、対象となる金融機関の国際的な金融システムに及ぼすリスク度を測定し、そのリスク度の高さから決定される。
マクロ・プルーデンスな政策 (Macro-prudential Policy)
2008年の世界的な金融危機によって、個々の金融機関の安全性を確保するには従来のミクロ・プルーデンスな政策では不十分であり、金融システム全体の安定を意識したより広範な金融規制監督の必要性が明らかになった。こうしたことから、従来、企業などの個別の経済主体の観点から行ってきたミクロ・プルーデンスな政策と比較して、金融システム全体の安定を意識した政策のことをマクロ・プルーデンスな政策と呼ぶ。
マクロ・プルーデンスな政策は、金融システム全体とその実体経済との関係を規制の対象とし、システミック・リスクやシステム全体の金融リスクを軽減することを目的とする。国家当局による健全性規制や監督、マクロ経済政策などと連携して行われるべき政策である。
ミクロ・プルーデンスな政策 (Micro-prudential Policy)
個別の金融機関の経営の安全性や健全性を監視・監督し、破綻を未然に防ぐ政策のこと。金融庁の検査や日銀の考査などが例として挙げられる。
プロシクリカリティ (Procyclicality、景気循環増幅効果)
元来存在する景気循環を増幅する効果のことで、景気に合わせた銀行の経営行動について言うことが多い。景気が悪化すると銀行は企業への融資を差し控える。その結果企業活動が滞り、景気悪化を後押しすることになる。単純化するとこのような現象のことを言う。
更に詳しく述べると、金融商品の時価会計やバーゼルⅡにおける銀行の自己資本規制にプロシクリカリティがあるとして問題視されている。クレジット市場が悪化したときに、これらの基準や規制に基づいた与信先や保有している金融商品の評価の悪化により、銀行などの市場参加者が信用供与の縮小と資産売却を強いられた結果、実体経済と金融機関の財務リスクをさらに悪化させるという影響が生じており、IFRSの金融危機対応プロジェクト等で対策が講じられている。
プロシクリカリティを軽減する方策としては、資本バッファーやバリューアットリスクに基づいた資本算定の見直し、貸倒引当金の積立基準の見直しなどが議論されている。